「そして人とのつながりは完全になくなった」京アニ放火殺人、青葉被告の軌跡(後編)
さらに週1回の訪問介護が付いていた。精神障害により日常生活のサポートが必要な人が対象で、部屋の掃除など家事支援のためだったと見られる。 ▽昼夜逆転の生活 こうした“手厚い”見守りの体制の下、社会生活を始めた青葉被告。落ち着いた環境で再び小説を書き始めた。巨大な目標があった。京都アニメーション大賞に応募する長編と短編小説を書き上げることだった。膨大なエネルギーを注ぎこんで数カ月で完成させたが、結果は落選だった。長編小説は応募要件を満たさず、審査対象外となっていた。がっかりし、裏切られた気になった。「ナンバー2が圧力をかけて落選させた」などと妄想に取りつかれた。 その後、愛好家や小説家の卵らが集まるサイトにも登録して投稿し、自身の作品が評価される機会を待ったが、誰からも読まれることがなく、退会した。2017年8月のことだ。 小説を京アニ側に盗まれたと被害意識を募らせ、精神的に追い詰められていく。アパートの壁が薄いのか、隣や上階から漏れる音に常時悩まされた。昼夜逆転の生活となり、人に会うのが嫌になっていったという。アパート上階の住人の物音には、自ら騒音を出して対抗した。スピーカーで大音量の重低音を響かせた。
アパートの大家ともめ、住宅支援員が間に入る。110番を受け、警察官が何度も臨場しているが、青葉被告はその都度「もうしません。引っ越しを考えているし、薬も飲む」「すみません」などとその場しのぎの対応をした。 被告の唯一の気晴らしは入浴だった。1日3回入り、長時間バスタブに漬かって、なんとかストレスを解消しようとしていたが、それも限界があった。 18年の正月。長年にわたり自分を奮い立たせ希望を持たせてくれていた小説のネタ帳を燃やしてしまった。青葉被告によれば、小説は恋愛に似たものだったが、うまくいかずうんざりしていた。こつこつと10年にわたってアイデアをためたネタ帳を燃やすことで、「もう関わらない」との強い意思を形にしたつもりだったが、吹っ切れて前向きになるどころか、逆効果になった。 当時の心境の変化を公判で聞かれ、「つっかえ棒が外れた。まじめに生きていくつながりがなくなり、あまりよからぬ事件を起こす方向に向かう」と表現した。