「そして人とのつながりは完全になくなった」京アニ放火殺人、青葉被告の軌跡(後編)
▽現実と妄想 18年5月、男性看護師の訪問に、包丁を持って対応する出来事が起きた。インターホンを押しても出てこないため、ノックするとしばらくしてぱっとドアが開いた。現れた青葉被告は左手で胸ぐらをつかんできた。頭のところに振り上げていた右手には包丁が握られていた。そして「つきまとうのをやめろ、殺すぞ」と怒鳴ったという。被告が現実と妄想の区別が付いていないと考えたのか、男性は自分が看護師であることと、事前に訪問の連絡をしたことを伝え、包丁を渡すように言った。すると、被告は包丁から手を離したという。 部屋の中に入ると、被告が愛好していた革ジャンや布団が(刃物で)ズタズタに切られ、パソコンやゲームも破壊されていた。 最初は「話したくない」の一点張りだった青葉被告だが、薬を飲ませ、雑談などを交えているうちに次第に表情が緩み、少しずつ話すようになったという。この日も、盗聴されている、公安にマークされているといった妄想を訴えた。隣の部屋の音(トイレを流す音、室外機の音)などで寝られず、ようやく寝付けたタイミングでの訪問だったことも悪かったようだった。看護師はとりあえず応援のスタッフを呼んだが、警察には通報しなかった。
ただこの一件を、被告の地域生活を支えるチームは深刻に捉えていた節がある。直後の診察では、不安でそわそわしている様子がカルテに記されており、地元の総合病院に入院させようと病院側に打診したが、家族がいないために断られた、となっていた。 18年6月には就労支援が終了した。作業所にも「気持ちの整理がつかない」と次第に通わなくなっていた。安定した社会復帰を果たすために仕事の有無は非常に重要とされる。青葉被告もできれば仕事をして自立したいと考えていた。しかし精神障害の悪化による生活の荒廃で、就労へのきっかけをつかめるような状況ではなかったとみられる。 ▽唯一の接点 2019年に入ると、青葉被告は社会と唯一の接点だった医療や福祉サービスを切り始めた。2月にクリニックを受診しなくなった。クリニックでの診察はいつも数分で「変わりはないか」「薬を飲んでいるか」ぐらいのやりとりしかなく、被告はこれまで対応に不満を持っていたようだ。