北海道に暮らす8割世帯が加盟。「生活協同組合コープさっぽろ」の物流ネットワークと資本主義の先をいく考え方
世界には1兆円規模の生協も
聞けば聞くほど「協同組合」の形には、新しい共同体として大きな可能性があるように思えた。だが一方で、寡占が進みすぎると、国鉄時代の古き共同体の時代に戻ってしまうのではないかという懸念すら感じる。そう口にすると「いやいや、そんなことにはならないですから」と大見理事長は笑った。 「まず資本主義のなかで競争し続けていることが大事です。ちゃんとそろばんを弾いて、商品の品質をあげる努力や競争相手のリサーチをすること。経営バランスと社会貢献の両方をやらないといけない。その上で、コープさっぽろがもっと大きくなることが、組合員の地域における貢献度を高めることになる。その実践が重要です」 世界には、1兆円以上の事業規模をもつ生協がいくつもあるという。 「スペインやイタリア、北欧諸国はどこも1兆円以上の事業をやっています。スイスでは5兆円規模の生協が二つあって、国内シェアの90%が生協。フィンランドは北海道とほぼ同じくらいの人口540万人の国で、国ができたとほぼ同時に生協ができている。生協が2兆円の事業をやっていて、小売だけでも54%を占めます。 そういうところのトップと話をすると彼らは『利益が出たら3分の1は組合員に還す』というんです。生協だから事業が継続さえできればいい。これは経営的にいうとすごく大胆な話で、3割は本当に返してしまう、つまり社会貢献に使ってしまおうと」 フィンランドの生協では、年130億円の風力発電の再生エネルギー投資を3年も続けていて、国内2位の事業として確立しているという。
それに対して、日本の経団連が1980年代に訴えたのは「1%のフィランソロフィー」。最終利益の1%を社会に還元しようという意味である。たったの「1%」。そして残りは株主への配当になる。 「株式会社の限界は、利益のほとんどが株主にいってしまうことです。たとえばうちとほぼ同じ事業規模の年200億円くらい利益を出している会社があって、そのほとんどが株主配当になってしまう。その構図は変えられませんよね。我々生協は、営利ではない社会貢献事業を数多く実施していて、そのために3割まではいかずとも年間15億から17億円ほど使っています」 しかもコープさっぽろで行う事業は、組合員から挙げられた要望の中から決まる。年に一度1100人ほどが参加する総会があるほか、エリア別に細かく意見を募り、120くらいの意見が出る。それに対して、すぐに対応するもの、すぐにはできなくても時間がかかるもの、今はできないものを決めて細かく説明するという。 「我々職員は、組合員の組織である生協から、専従者として委託を受けた者という認識なんです。あくまで代行者です」
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