「國學院大はエース平林だけじゃない」全日本駅伝MVP「もう一人の男」山本歩夢の“夢”…箱根駅伝「1区区間賞で同期・平林にタスキ」で初優勝・三冠へ
全日本大学駅伝で初制覇を果たし、学生三大駅伝の三冠に王手をかけた國學院大学。主役は一人ではない。10月の出雲駅伝ではエースの平林清澄が優勝の立役者となり、伊勢路ではもう一人の4年生が大会MVPを受賞した。箱根駅伝に向けての國學院のキーマンと、三冠への青写真に迫る。<全2回の前編/後編を読む> 【現地写真】「これはキツい!」全日本駅伝、平林vs太田、エース対決のデッドヒートと逆転ゴールから、「一冠目」出雲駅伝での國學院大ほか、現地撮り下ろし写真を全部見る 東海道新幹線が一時ストップするほどの大雨も落ち着いたレース前日の静かな夜。全日本大学駅伝の6区にエントリーされた國學院大の山本歩夢に1本の電話が入った。スマートフォンの画面に目を落とすと、着信は同期の平林清澄である。 「ほかの出走するメンバーにはLINEでメッセージを送ったようなのですが、僕には直接、電話をかけてきたんです。珍しく緊張している風でしたね。いつもは明るく『一緒に優勝しような』という感じなのに声のトーンもどこか少し暗くて……。注目度が高くなり、エース、主将の重圧を感じていたのかなって。あいつも人間なんだと思いました」
平林につなぐために
秋晴れとなった11月3日、学生最後となる伊勢路のスタートラインに笑顔で立ち、気合を入れた。前回大会は準エース区間の2区でブレーキ。故障明けの影響で区間11位と苦しみ、順位を4つも落としてしまう。1年前の悔しさを胸に留めてきた。今回、前田康弘監督から与えられた役割は、“つなぎ区間”で前との差を詰めること。先頭と41秒差の2位で野中恒亨(2年)から襷を受けると、自らに言い聞かせた。 「『攻めの駒』として、平林を少しでも楽に走らせてあげようと」 3km過ぎで“差し込み”と言われる脇腹痛が出たときは少し焦りを感じたが、すぐに心を落ち着かせた。左手で右脇腹を何度も押さえているように見えたが、マッサージしながらほぐしていたという。このまま後半まで持っていけば、走れる感覚があった。表情を歪めながらもペースを落とさず、前を走る青山学院大の白石光星(4年)との距離をじわりじわりと縮める。ラストは力を振り絞り、すぐそこに背中が見える4秒差まで迫った。 「7区で平林が待ってくれていることが力になりました。僕がどんな走りをしても、決めてくれると信じていたので。青学大に追いつけなかったのは僕の力不足でしたが、前の背中が見える位置で渡せたのは良かった。自分の仕事はできたのかなと」 本音は2区で雪辱を果たしたかったが、静かな笑みを浮かべた。夏前まではシンスプリント(すねの痛み)、中足骨のケガ、体調不良にも苦しみ、思うように走れなかった。夏合宿も2次合宿の途中でAチームに合流し、3次合宿も仲間に食らい付くのが精一杯。現実を受け入れて、焦らずに調整してきた。 10月の出雲駅伝はぎりぎりで出走メンバーに選ばれ、つなぎの2区で必死に粘った。そこから3週間で少しずつ調子を上げ、伊勢路では初の区間賞を獲得。元中央大の吉居大和(現トヨタ自動車)の持つ区間記録も更新し、笑顔で大会MVPのトロフィーまで手にした。前田監督もアンカー区間の逆転劇につながる活躍ぶりに目を細めた。 「(3年目まで)山本は主要区間で起用してきたなか、今回は“つなぎ区間”で起用しましたが、冷静に仕事をしっかりこなし、4年生として素晴らしい走りを見せてくれました」 しみじみと話す言葉には実感がこもっていた。
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