「國學院大はエース平林だけじゃない」全日本駅伝MVP「もう一人の男」山本歩夢の“夢”…箱根駅伝「1区区間賞で同期・平林にタスキ」で初優勝・三冠へ
入学時には平林より高評価だった
山本はルーキー時代から大きな期待を寄せられてきた。國學院大初の13分台ランナー(5000m)として、福岡の自由ケ丘高校から鳴り物入りで加入。入学当初は平林よりも評価が高く、同期のライバルと切磋琢磨しながら順調に過ごしてきた。箱根駅伝は2年連続でエース格が集まる往路の3区を任され、いずれも区間5位と力走している。1年時の冬にはハーフマラソンで当時の日本人学生歴代2位となる1時間00分43秒をマーク。そのとき、平林は強い刺激を受け、対抗意識を隠そうとしなかった。 「そこまで行くかと思いました。これは練習から歩夢を超えていくしかないなと。タイム設定もすべて上回ることを意識しましたし、歩夢の練習タイムが基準になりました」 山本も学生三大駅伝で結果を残し続ける平林の強さを認めつつ、負けず嫌いな一面をのぞかせていた。 「一番近い存在だけど、一番負けたくない」
箱根を走れなくなるとは…
山本の歯車が狂ったのは3年目。夏合宿で故障した影響が尾を引き、出走した出雲駅伝、全日本大学駅伝では本来の走りができずにもがき続けた。調子が上がらずに思い悩むなか、11月末には追い打ちをかけるように右の大腿骨を負傷。箱根駅伝に間に合わせるために急ピッチに準備を進めたが、時間は待ってくれなかった。 「前田監督から『今回は止めておこう』と言われたときは、正直きつかったです。まさか箱根を走れなくなるとは思わなかったので」 12月31日、1月1日は寮のベッドにもぐり目をつぶると、悔しくて、もどかしくて、どれだけ時間が経っても、寝つけなかった。寮では出走を控えた後輩たちが緊張するなか、一人隠れて涙も流した。チームは主力に体調不良者が続出し、不安を抱えたままレースへ。往路は「とにかく無事に終わってくれ」と祈りながらテレビの前にかじりつき、復路では給水係を務めて仲間のために尽力した。 「これでダメだったら、すべて自分のせいだと思っていました」 箱根を総合5位で終えても、複雑な気持ちだった。あれから約1年。故障で苦しんでいる期間に平林は大阪マラソンで優勝するなど、学生の域を超えて結果を残すようになり、どんどん差を広げられたという。走れない時期に「歩夢、待っているから」と掛けられた言葉は心に染みた。それでも、負けたくない思いは、いまもずっと心の底にはあるようだ。 「平林は大エースだとみんな分かっていますが、國學院は平林だけとは思われたくないです」 ただ、競技者として強く意識する相手であっても、昔も今も心が通じ合う盟友。1年時から2人でジョグをすれば、「4年目で一緒に箱根で優勝しよう」と、数え切れないほど同じ会話を交わしてきた。寮の部屋には毎日のように平林が来て、延々と陸上談義に花を咲かせる。山本はいつも聞き役だという。 「あそこまで陸上競技が好きなヤツはいないと思います」
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