「もしトラ」で防衛費増強を強いられる欧州、財政赤字と債務残高の拡大でイタリアでは債務危機再燃のリスクも
■ イタリアの債務問題が日本に延焼するリスクも 以上のような欧州債務危機の再燃をイメージさせるようなシナリオは、トランプ氏の再選、その後の防衛費増強の要求、米国のウクライナ支援縮小やウクライナの戦況悪化など推測の上に推測を重ねた上での懸念ではある。 しかし、EU、とりわけ高債務を抱える加盟国への軍事費増強が真に迫られるような局面に至った場合、例えばイタリア国債がG7初の投機的等級に格下げされ、この収拾にECB(欧州中央銀行)が追われるという可能性もなくはない。 その際に「利下げしたくてもできない」というインフレ高止まりのような情勢にあった場合、ECBの政策環境はかなり窮屈なものになる。 また、日本にとっても他人事とは言い切れない。仮に欧州がトランプ氏から防衛費増強を強いられ、それがイタリアの債務問題に発展した場合、日本も同じ目で見られる可能性はある。 もちろん、国債消化構造が全く異なるゆえ同じ目で見られること自体は適切ではないが、事実としてイタリアよりも政府債務残高が大きい中(図表(5))、日本にも猜疑心が向けられる展開は否めない。 【図表(5)】 岸田政権は既に2027年度に防衛費をGDP比2%に増額する方針を決めているわけが、先に述べたように、2%でトランプ氏が納得する保証はない。「もしトラ」が欧州の安全保障懸念を経由して、日本に延焼してくる可能性も頭の片隅には置きたいところである。 なお、ただでさえ、財政ファイナンス懸念が大きな円安リスクだと言われていることを踏まえると、果たして為替市場が平静を保つことができるのかという点も注目される。 ※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年5月22日時点の分析です 唐鎌大輔(からかま・だいすけ) みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。
唐鎌 大輔