「もしトラ」で防衛費増強を強いられる欧州、財政赤字と債務残高の拡大でイタリアでは債務危機再燃のリスクも
■ イタリアの債務危機に及ぶリスク なお、継続的な目標達成という視点からトランプ次期政権(2025~28年)を通じてGDP比2%以上という軍事費拠出が維持されるのかどうかという論点も注目される。 ウクライナの戦況次第で必要とされる軍事費は恐らく増えるため、この辺りには強い不透明感がある。 いずれにせよ、仮にトランプ次期政権下で米国がウクライナ防衛に割く費用を縮小した場合、その分は欧州各国にしわ寄せがくるという展開は警戒される。だからこそ、欧州各国は軍備増強に動かざるを得ない状況にある。 問題は、すべての国がこうした潮流に耐えられる保証はないという事実だ。金融市場の観点からは債務危機にまつわる混乱に発展しないのかどうかがポイントだ。 タイミングが悪いことにパンデミックを契機に運用が停止されてきたEUの財政枠組みである安定成長協定(SGP)が2024年から再開されており、(1)財政赤字はGDP比3%以内であること、(2)債務残高で名目GDP比60%を超えないこと──という往年の制約が復活している。 予定していなかった財政支出が加算されるようになればSGPに抵触し、欧州委員会が該当国をとがめ、債券市場が荒れるという定番の混乱が起きることになる。 その筆頭格は、いつも通りイタリアになる可能性が高い。 ドイツ同様、イタリアの防衛費も2014年の208億ユーロから2023年の286億ユーロへ約37%も増えている(2015年基準の実質金額ベース)。名目GDPに占める防衛費の割合も1.14%から1.46%に浮上するなど、はっきりと流れは変わっている。 もっとも、ドイツが設定したような特別基金を持たないイタリアは2%到達の目途が立っているわけではない。NATO試算に基づいた場合、2023年時点のイタリアが名目GDP比で2%の防衛予算を計上するとしたら、あと100億ユーロの上乗せが必要になる。 ただ、防衛費の件がなくともイタリアの財政赤字はSGPに抵触しており、2023年時点で▲7%とEU27カ国平均(約▲3.5%)の倍以上の規模に達している(図表(3))。目下、欧州委員会による財政規律違反手続きに入っているところだ。 【図表(3)】 順当な改善を見込むIMF(国際通貨基金)の4月予測に基づいても、2024年に▲4.7%、2025年に▲3.2%と違反状態が続くことになっている。 欧州委員会がトランプ氏再選とこれに伴う安全保障上の脅威をパンデミック同様、例外的な事態だと捉えない限り、イタリアが現時点から「毎年100億ユーロの財政支出を増やす」という話は現実的ではない。 こうした状況下、イタリア国債の対独スプレッドは既にギリシャ国債のそれと比較してもかなり水をあけられている状況である(図表(4))。 昨年11月には米大手格付け会社がイタリアの長期発行体格付けを「Baa3(トリプルBマイナス相当)」に据え置き、「G7初の投機的等級への格下げ」という事態が回避されたことが話題になったばかりだ。 【図表(4)】 この際、格付けの見通しが「ネガティブ」から「安定的」に引き上げられているが、トランプ氏の挙動次第ではこれもまた危うさを抱えるだろう。 防衛費増強と共に「G7初の投機的等級への格下げ」となれば、メディアのヘッドラインとしてはかなり大々的にクローズアップされるに違いない。