阪神のドラフト1位岩貞は、なぜ勝てたのか
インタビューを受けている岩貞の声はか細い。 「(春のキャンプで)いきなり怪我をして思い通りに行かない時期があったんですが、ようやく1勝ができて本当に嬉しいです。前回の先発は(対広島戦)緊張しすぎて思い通りにピッチングができなかった。今日は最初に3点も取ってくれて本当に心強く安心してマウンドに上がることができました」 涙もなく、威勢のいい言葉も、ハンカチ王子のような洒落た名言もない。静かな笑顔。この青年の誠実さは、そのアナウンサーとのやりとりが象徴していた。ファームの関係者に岩貞のキャラクターを聞いても、礼儀正しい、大人しい、生真面目、そんなキーワードが返ってくる。礼儀正しい草食系に見える好青年は、しかし、マウンドに上がると豹変する。 思い切り腕を振って、まるでバッターに火の玉になってぶつかっていくようなピッチングスタイルである。逃げない。右打者のインサイドへ、カットとスライダーを鋭く食い込ませていく。一回、先頭の左打者、石川にレフトへおっつけられて無死の走者を背負ったが、白崎をカットボールでバットの芯を外し、梶谷には、11球粘られたが、最後は、またボール気味のカットに手を出させた。ブランコには、初球に真ん中高め、つまりちょうど目線の位置に渾身のストレートを見せておき、チェンジアップを続けた。抜け球や逆球も多少目立ったが、迫力満点に腕を振るピッチングスタイルは小気味よかった。 「見られた風景だった」と本人が言うように、横浜商大時代に主戦場だった横浜スタジアムのマウンドへのフィット感もあったのだろう。横浜DeNA打線は、カットのスライダーに翻弄され続け、6つの三振と9つの内野ゴロの山を築いた。進藤・コーチが、こんな談話を残す。「丁寧に投げていた。スライダーを見極めるかどうかだったが、初対戦で軌道がちょっと違い難しく、低めのボールに手を出してしまっていた」。 阪神DCで評論家の掛布雅之氏に、同じく打者目線で話を聞いたが、「腕がふれているのと呼吸がいい。春の沖縄キャンプで見たときから、クロスファイアー気味のスライダーが使えると思っていた。バッターというのは、体に近いボールに反応するもので、バットを出したはいいが考えたところにボールがないという状態だったのではないか。岩貞は真面目な性格だが、マウンドでは裏腹に度胸がいい。今日は躍動して見えた」と岩貞の長所を分析していた。