阪神のドラフト1位岩貞は、なぜ勝てたのか
6回二死を取ってから、ブランコ、バルディリスの連続アーチを浴びたところで勝利投手の権利を手にしたまま降板したが、安藤―福原―オ・スンファンがゼロリレー。ここまで苦しんできたルーキーに待望のプロ初勝利をプレゼントした。 昨秋のドラフトで阪神は1位に九州共立大の大瀬良を指名した。広島にクジで敗れ、次に入札したのが、日本生命の柿田。これも横浜DeNAにクジで負け、外れの外れで1位指名したのが、横浜商大のサウスポーだった。スタンリッジ、久保の先発ローテーション2人を失っていた阪神は、今春キャンプの最初から、能見、メッセンジャー、藤浪に続く、第4、第5、第6の先発候補を必死に探していた。岩貞は高知・安芸での2軍キャンプスタートだったが、途中、中村GMと黒田ヘッドが、安芸に視察に訪れ、途中から岩貞を沖縄キャンプに合流させた。慣れぬプロのペースと“いいところを見せたい”という気持ちが裏目に出て、岩貞の左肘はパンクした。開幕を前に即戦力と謳われて入団したドラフト1位は、その姿を消した。 そこから阪神のトレーナー陣に支えられながら続いた辛くて長いリハビリ生活……。その間、広島の大瀬良は開幕からローテーに入って早々と初勝利を挙げ、阪神の6位指名の左腕、岩崎がローテーに抜擢され勝ち星を重ねた。横浜商大で岩貞の控えだった左腕の西宮が、楽天の重要な中継ぎとしてフル回転していたことも刺激になっていた。生真面目な岩貞の心中は察するに余る。 ファームの遠征居残り組を見ていた掛布氏は、何度か、岩貞にこう声をかけている。「焦るなよ。もう一度、怪我をしたら選手生命が終わってしまうぞ。おまえの気持ちはわかるけれど、先は長い。まずは戦える体を作れ」。岩貞は、いつも真剣に「わかりました」と答え、誠実に練習を続けた。掛布氏が見ている限り、一度として腐るような態度を見せることはなかったという。 この日、岩貞は、試合後、「2軍でずっとトレーナーさんと一緒に地道なトレーニングをしてきました。裏方さんやトレーナーさんの温かいサポートでここまでこれたんです。本当に感謝してます」という話をしていた。何がよかったのか?と聞かれ「梅野のリードが良かった」と同じくルーキー捕手の配球を口に出した。初勝利に浮かれることなく、まず感謝の気持ちを口にできる。このことは、この若者の人格を示している。マウンドでは度胸を満点。一歩、ダイヤモンドを出ると謙虚で感謝の気持ちを忘れず奢ることもない。