「明日が来なければいい」――ベジータ芸人・R藤本 闇の先に見いだした「負けの美学」
ベジータの「負けの美学」に惹かれる
そんな藤本は、中高生のころを「闇の時代」と形容する。 「毎日、もう目覚めなきゃいいなと思いながら寝てました。明日が来なければいいと」 きっかけは父との衝突だった。中学校での成績は良かったが、一度、中間テストで低い点数を取ってしまい、テレビと大事にしていたゲームを全部捨てられてしまった。そのテストは平均点自体も低く、藤本はむしろ平均以上の点数を取っていたが、医者の父にとっては許せるものではなかった。 高校受験の失敗も父の怒りを買う。実家から通える距離の高校には合格したが、「お前、明日から寮に行け」と追い出された。それ以降、父とは現在に至るまで口をきいていないという。親との関係がこじれたことで学校生活もうまくいかなくなった。 「心を閉ざしちゃったんです。いろいろなことを諦めた。だから、友達をつくろうとも考えなかったです。恋愛とかはもちろん、自分が大人になる姿も想像できないレベルでした。どっかで死ぬんだろうなって思ってました」
闇から抜け出すきっかけは、子供の頃から好きなお笑いだった。寮にはテレビがなく、藤本は芸人の書いた本を買った。その中のひとつが爆笑問題・太田光の自伝。太田は高校時代、友達がひとりもおらず、卒業旅行もひとりで行っている。 「自分はそこまでじゃなかったんですよ。少数だけど友達はいた。自分よりも暗い状況にいた人が、大学でははじけてお笑い芸人で成功しているというのが、自分にとっては“希望”でした。それで大阪の大学に進学したときに、自分なりに頑張って、変わってみようと思いました」 こうした経歴からか、藤本がベジータというキャラクターに惹かれるのも「強さ」よりも「負けの美学」の部分だ。 「必死にやって負けたりしてるのをずっと繰り返してる感じが、なんかお笑い的に面白いなって思ったんです。プロレスでもそういう悪役がいると思うんですけど、それをすごい体現してる感じに惹かれます」