「明日が来なければいい」――ベジータ芸人・R藤本 闇の先に見いだした「負けの美学」
『ドラゴンボール』の人気キャラクター「ベジータ」になりきる芸人・R藤本(39)。いついかなる場面でも「そのキャラから降りない」芸風で一線を画し、ネット配信を中心にテレビや舞台で活躍するが、「闇の時代」があったという。明日が来なければいいとさえ思った中高時代、前を向くきっかけとなった「希望」――決して素を見せることはない「ベジータ芸人」が素顔を見せた。(取材・文:てれびのスキマ/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)
素人からネット配信芸人の「エリート」に
藤本は、最初期に「ニコニコ生放送」を始めた芸人だ。2009年5月にスタートした“ニコ生最古の番組”『R藤本の水曜はじけてまざれ!』は500回を超える。 「ライブに出てもウケてなかったんですが、ネットの生配信だと、ライブに来ない層の人たちが高評価をつけて喜んでくれた。お互い新鮮で、最初はコメントを読むだけで成立したくらい盛り上がっていました」 番組をきっかけに藤本の元に「DB芸人」(『ドラゴンボール』キャラのものまねをする芸人)が集結していく。 「全部、噂からなんです。最初は大阪でナッパ(ぴっかり高木)とコンビのとき、東京にフリーザ(BANBANBAN・山本)がいるらしいと(笑)。ヤムチャ(バードフミヤ)がいたと聞けば、ライブで共演したり、ニコ生に呼んだりして」 孫悟空の声優・野沢雅子のものまねでブレークしたアイデンティティも加入し、2017年には藤本主催で「劇団アニメ座DB超」を超満員で開催。2020年には『真・劇団アニメ座DB』を全6回公演で開催し、2400席を完売させた。
きっかけはmixi。芸人活動は「草野球」感覚
波に乗り、意気揚々かと思いきや、藤本の表情は明るくない。 「テレビにいっぱい出たいとは、正直そんな思ってないんです。お金がたくさん欲しいとか、ちやほやされたいという欲もない。芸人を目指す人ってそういう願望が多かったりするんでしょうけど、そもそも僕はそういう入り方じゃなかったので」 2006年、藤本は会社勤めの傍ら『R-1ぐらんぷり』に出場した。芸を見たアマチュアのお笑いライブからmixi経由で出演オファーが届き、芸人活動を開始。「週末だけやる草野球みたいな感覚」だったという。1年半ほど活動した後、会社を辞めプロの芸人になった。 「結局、お笑いの世界が楽しかったんです。会社では誰でもいいような仕事をしてました。お笑いは代わりがきかない個性だけの世界で、売れるとか稼ぐとかは抜きにして、とりあえずやってみようと思ったんです」 それまで『アンパンマン』の「ジャムおじさん」のお面をつけてネタをしていた藤本は、ほどなくして「ベジータ」になる。 「きっかけは、コスプレ衣装の発売を知ったから(笑)。ジャムおじさんは顔を出さないし、これ一個でやるのは限界を感じてたんで、軽い気持ちでベジータをやってみたらウケたんです」 藤本が他のものまね芸人と一線を画すのは、そのキャラから“降りない”ことだ。トークなどでも基本的に“ベジータのまま”。決して素を見せることはない。 「そうしたいから、というのが一番ですが、自分が視聴者だったら、ベジータの格好をしてへらへら自分の話してるやつなんか見たくないと思うんですよ。だから自分みたいなやつに向けてずっと“ベジータごっこ”をしてるんです」 最近では『千原ジュニアの座王』(関西テレビ)などで大喜利力が高く評価されている。 「キャラ芸人なのでイロモノ的な扱いは仕方ないと思いつつも、大喜利ができないって思われがちなところを少しでも払拭できるのはうれしい部分はありますね」