キック世界3冠KO奪取の那須川天心が見せた井上尚弥との共通点とは?
「相手の情報もない。5ラウンドあるし様子を見た」という1ラウンドに成長の跡があった。ステップバックを駆使しながらブランコに入ってこれる距離を作らせない。フェイントをかけ反応を確かめ、内、外の打ち分けのジャブで距離をはかり、プレスをかけて左ストレート、角度を変えた左フック、左ハイなど多彩で立体的な打撃を繰り出しながらアンテナを張った。 当初、対戦予定だったISKAフリースタイルルール世界フェザー級王者のアメッド・フェラージ(フランス)が、恐れをなして敵前逃亡。急遽、相手が変わり、何のデータもないブランコの戦闘能力情報をこの3分間で処理していたのである。そして瞬時にして勝利戦略を組み立てる。 「彼には一発もらったら危ない大きなパンチもあった。安心できなかったし、いろんな攻撃を試した。どれだけ早く情報を得るか。結局、一発ももらっていない。2,3ラウンドくらいまでに(KOできたら)とコンビネーションを打ったが、途中でミドルが入ったので早く終わらせた」 試合後、カットした右目上に絆創膏を張ったブランコは「天心は非常にいい選手で動きがいい。でももっと強いと思っていたが、(パンチ、キックを受けた)強さは、思っていたほどではなかった」と負け惜しみを言った。 だが、「距離をうまく取れなかった。左のパンチを生かしたかったが、天心がステップバックでうまく距離をコントロールしてきたのでペースを作れなかった」と天心の距離感とステップバックを使った反応を絶賛した。 この1ラウンドの天心の動きは、英国グラスゴーでの衝撃TKO劇に「刺激を受けた。凄い」とリスペクトする井上尚弥のそれと類似している。 井上尚弥の隠れた凄さは、実はステップバックの速さ、反応であり、相手の力量や弱点を一瞬にして見極める嗅覚、情報処理能力の高さにある。競技が違い、天心のそれは、まだまだ井上のレベルには及ばないが、井上の20歳のときを思えば、その素養や向かっていく方向性、スケール感に共通点がある。しかも天心の情報処理能力とスピードはキャリアを積むごとに進化している。天才と呼ばれる格闘家だけが備えている才能かもしれない。