キック世界3冠KO奪取の那須川天心が見せた井上尚弥との共通点とは?
「突っ走ってきたので、ちょっとだけ休もうかな」 天心は本音も漏らした。 大晦日のボクシングの無敗の元5階級王者、フロイド・メイウェザー・ジュニア(米国)とのボクシングルールによるエキシビジョンマッチで、屈辱のTKO負けに涙した後、3月10日にRISEの-58kg世界トーナメント1回戦で復活勝利。4月21日には「RIZIN.15」で6階級王者、マニー・パッキャオの推薦選手を倒し、5月18日には、AbemaTVの「那須川天心にボクシングで勝ったら1000万円」企画で、元WBA世界スーパーフライ級王者、テーパリット・ジョージム(タイ)、同志社出身のアマ経験者の伏兵、藤崎美樹の2人とボクシングマッチで対戦。そして、この日のRIZINでの“世界3冠戦”と、ファンが心配するほどの超過密スケジュールを突っ走ってきた。 「ずっとオン。この状況に慣れたので、皆さんが毎日、仕事に行くように、毎日、格闘技を一生懸命やっている。楽しいし向上心しかない。自分の好きなことをやっているのでオフは必要ないというか重要視していない。たまにあるテレビの撮影がリラックスになっていたりしている」 練習過多の傾向にある天心は、必然、オーバーワーク状態が続くことになるが、「オーバーワークって慣れちゃうとオーバーワークでなくなるんです。20歳で若いんで」と笑い飛ばす。これが天心の強さの本質であり説得力だ。 この後も、6月22日に同じくAbemaTVの企画で、ボクシングの元世界3階級王者、亀田興毅とのスペシャルマッチが控え、7月21には、大阪で主戦場としているRISEの-58kg世界トーナメントの準決勝。「強い」と天心が評するルンピニースタジアム認定スーパーフェザー級王者、スアキム・PKセンチャイムエタイジム(タイ)と対戦する。 「やっと(RISEの準決勝に)たどりついた。RIZINの2試合はやる予定ではなかったんですが、ちゃんとクリアした。今のモチベーションは全然違う。6月も(亀田戦)しっかりとクリアしたい。成長した姿を見せたい」 そして天心は、その先にある夢を語った。 夢というより格闘家としての渇望の叫びに聞こえた。 「RISEの制覇。その後は世界へ出たいですね。オファーがあればどこにも行きますよ。元々、世界一になりたいのが自分の目標。日本に留まってやることもなくなってきた。そろそろいいんじゃないかなと」 キックでは31戦無敗。確かに9月16日に幕張で行われるRISEの決勝戦が終われば、もう戦う相手がいなくなる。今回獲得したISKAには、フリースタイルルールなど、5つのカテゴリーがあり、今回は、ユニファイド(統一)ルールで、ISKA側は「今後はユニファイドに絞っていきたいので天心にベルトを統一してもらいたい」との希望を語ったというが、そこに難敵はいそうになく天心に統一意欲もないだろう。 井上尚弥は、WBSS(ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ)で世界のトップボクサーを次々と倒してブランド力をアップさせ、海外リングからインパクトを発信し続けている。天心が抱く夢も、そういうヒリヒリするような世界の舞台だ。 榊原実行委員長も「ひとつひとつの技の重さ、殺傷能力が増している。天心は、もっとエキサイティングな戦いを求めている。いろんなアイデアをもってRIZINらしく組んでいきたいが、4階級、5階級とキックで階級を上げていくのか、ボクシングなど他ジャンルなのか、総合なのか。キックボクサーとして他流試合に挑んで欲しいし、ONE、ベラトールと、海外にモチベーションがあるなら(他団体の試合を)止めるまでもなく応援したい」という。 キックの場合、海外リングと言っても、ボクシングのラスベガスのような殿堂があるようでない。タイには、ラジャダムナン、ルンピニーと2大殿堂があるが、そのチャンピオンは、RISEに参戦しているし、総合格闘技なら「UFC」が最高峰だが、キックのカテゴリーはない。 天心がイメージする「世界」は、RIZINのような総合&キックのイベントとしてシンガポールからアジア、世界に拡大中で日本進出も果たした「ONE」、或いは、米国でUFCに次ぐ勢力を持つ「ベラトール」なのだろうか。それともボクシングに転向して井上尚弥の背中を本気で追うのか。 「神戸は熱かったです。いろんな人から声をかけてもらって元気をもらった。僕も誰かの人生を変えるというか、誰かの元気の源になれればいいなと思う。まだまだ、もっと成長したい。自分を高めることをやっていきたい」 天心の飽くなき探求心。これが未来のドリームを生み出していくのである。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)