考察『光る君へ』44話 遂に道長(柄本佑)の「このよをば」!果たして「この世」なのか「この夜」なのか?見上げる望月は、まひろ(吉高由里子)と結ばれたあの夜と同じ月
大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00~)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語』の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。 最終回まであと4話! ついに、道長(柄本佑)のあの歌「このよをば……」が披露された44話「望月の夜」。その真意とは? ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載46回(特別編2回を含む)です。
道長の思い出
長和4年(1015年)病が悪化し、目が見えず耳も聞こえない三条帝(木村達成)。 公卿、参議とのやり取りに支障が生じている。帝がこの状況を「問題がない」とするのであれば、正常な判断力を失っていると言わざるを得ない。 周囲からの譲位への圧力を何とか和らげようと、帝は第二皇女・禔子(やすこ)内親王を道長(柄本佑)の嫡男・頼通(渡邊圭祐)の嫡妻として降嫁させるという左大臣家懐柔策に出た。しかし、その縁談を両親から持ち掛けられた頼通は強く反発する。 頼通「そのようなことをお命じになるのなら、私は隆姫(田中日奈子)を連れて都を出ます。藤原も、左大臣の嫡男であることも捨て、ふたりきりで生きてまいります」 道長にはその気持ちが痛いほどわかる。かつて自分も、まひろ(吉高由里子)にそう語りかけたのだ。一緒に都を出よう、藤原を捨てる。右大臣の息子であることもやめると……しかし「わかる」とは口に出せない。妻・倫子(黒木華)に打ち明けられない思い出を、道長は月影の中に見る。
譲位を決めた三条帝
道長は、長女である皇太后・彰子(見上愛)に頼通の説得を頼もうとするが、彰子は「禔子内親王様は、名ばかりの妻となってしまうであろう……かつての私のようでお気の毒なことだ」と内親王に同情的だ。禔子内親王はこのとき13歳、頼通は23歳、隆姫は20歳。12歳で既に定子(高畑充希)という后のいる一条帝(塩野瑛久)に入内した自分と重ねずにはいられないのだろう。 「この婚儀はだれも幸せにならぬとお断りするがよい」と突っぱねられた。道長は次女の中宮・姸子(倉沢杏菜)のご機嫌伺いと称して藤壺に顔を出したが「禎子(よしこ/子役さんのお名前わからず)が産まれたときは皇子でないのかと落胆したと聞いた、今更なんなのか」と批難される。 ところで、この場面で母親である姸子から、 「私はここで、この子と諦めながら生きてまいります」 と言われた可愛い小さな女の子、禎子内親王とは、のちに藤原摂関家を外戚とせず、頼通・教通(姫小松柾)兄弟と対立する帝──後三条天皇の母であり、摂関政治終焉のトリガーなのだ。歴史上の超重要人物がニコニコ笑顔で座っている。 后である娘たちからの援護を望めない道長は、禔子内親王降嫁を断る口実として、頼通に「病になれ。それしかない」と仮病作戦を勧めた。 サラッと「伊周(三浦翔平)の怨霊によるものだ」と言うが、仮病のダシに使われた伊周も泉下で驚いているのではないか。このときの頼通の重病は、『栄花物語』では隆姫女王の父・具平(ともひら)親王の怨霊によるものとし、『小右記』はドラマのとおり伊周の霊が影響したことを記す。 懐柔策が失敗して肩を落とす三条帝に、実資(秋山竜次)がアドバイスした。前回43話では「もう二度と私を頼るな!」と怒り心頭だったが、帝に頼られたら熟慮のうえで提案をする。個人的な憤りは脇に置き、廷臣としての忠誠心を示せるところがさすがだ。実資のいう「奥の手」とは、帝の長男・敦明親王(阿佐辰美)を東宮とすることを条件として譲位する──レビュー36回)で記したとおり、三条帝の憂慮は父・冷泉帝の皇統が絶えることであったから、敦明東宮が実現するならば将来的な悩みは解決するのだ。 譲位を決めた三条帝は美しい三日月の夜、皇后・娍子(朝倉あき)に寄り添われて横たわる。『小倉百人一首』三条院の歌は、まさにこの譲位をする時に詠まれたとされる。 心にもあらで憂き世にながらえば恋しかるべき夜半の月かな (死んでしまいたいくらい辛い世であっても生きながらえたなら、いつかこの夜更の月を懐かしく思い出す日が来るのだろうな) 病に蝕まれた目に月は見えてはいない。しかし、衰弱しつつもその表情には重荷から解放され、沖融たる風情すら漂う。愛する娍子と過ごしたこの安らかな夜のことを、三条帝は忘れないだろう。そして観ているこちらも、これから先「心にもあらで憂き世にながらえば」の歌に触れるたびに、この帝と皇后を思い出すに違いないのだ。
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