考察『光る君へ』44話 遂に道長(柄本佑)の「このよをば」!果たして「この世」なのか「この夜」なのか?見上げる望月は、まひろ(吉高由里子)と結ばれたあの夜と同じ月
「このよをば」の真意とは
寛仁2年(1018年)。彰子が太皇太后、姸子は皇太后、威子が中宮となり、3つの后の地位を道長の娘3人が占めた。一家三后。これを『小右記録』は「未曾有なり」と記した。 威子中宮立后の夜に催された宴。娘たちに晴れやかな表情は見えない。国母としての威厳を崩さない彰子はともかく、姸子と威子には、一族栄華のための道具にされたとしても心までいいようにされてたまるものかという矜持を感じる。 紅葉舞い散るなか披露される舞……久しぶりに漫画『あさきゆめみし』で見たやつ!『源氏物語』7帖「紅葉賀」だ! と拍手した。そして、道長が身にまとっているのは直衣布袴(のうしほうこ)。『源氏物語』8帖「花宴」での光源氏と同じ、平安貴族の特別な姿……! これを着こなすなんて、柄本佑すごい……興奮と感激で泣きそうだった。 酒宴で道長が盃を皆に回す。36話で後一条帝が誕生した際に、まひろが満月を眺めながら詠んだ、 めづらしき光さしそふ盃はもちながらこそ千代も巡らめ (若宮様ご誕生という素晴らしい栄光に包まれたこの盃は、今宵の望月のように欠けることなく、人々が集った輪の内を永遠に巡ってゆくことでしょう) この歌をそのまま実現させたかのような場面だ。あのとき道長は「いい歌だ。覚えておこう」と言った。まひろも覚えていてるなら、ふたりにだけ通じるメッセージか。立ち上がる道長……実資を傍に呼び、今から詠む歌の返歌を求めた。 このよをば我がよとぞ思ふ望月のかけたることもなしと思へば あまりにも有名なこの歌は、実資の『小右記』にしか記録されていない。多くの貴族がこの宴に出席していたにも関わらずだ。道長も自身の日記『御堂関白記』で歌を詠み皆が唱和したとだけ書き、歌そのものは残していない。しかし、なんでも細かく記録している実資がこの歌のみ嘘を書く意味はないから、本当に道長が詠んだのだろうという信頼がある。 優美な歌だから返歌できない。元禛(元微之)と白楽天の故事にちなみ、皆で唱和しましょうと呼びかけたのも『小右記』のとおりだ。ここで、あっと思い出した。 6話の漢詩の会において道長が他の誰にもわからないよう、白楽天の漢詩『禁中九日 対菊花酒憶元九(きんちゅうくじつ、菊花の酒に対し元九※元禛のこと※を憶う)』でまひろに熱い愛を伝えたことを。 「君をおいて、他の誰と酒を呑もうか。私はひとり君を思い、君の作った菊花の詩を吟じて過ごした……」 ここか! このよをばの場面につなげるために、あの序盤で元禛を思う白楽天の菊花の詩を出したのか、しかも隠された愛の言葉として……! 6話の時点では道長がこんなにもまひろまひろの人生を送るとは思っていなかったから結びつかなかった。なんちゅうドラマづくりをするのか、大石静! 「このよをば…」は筆で記した歌ではなく、実資が聞いたものだから「この世をば」なのか「この夜をば」なのか本当のところはわからず、歌の解釈も様々だ。一般的に教科書などで紹介されるときは「この世は私のものだと思う。私の人生は満月のように欠けたところがないのだから」など、すべてを手に入れた平安貴族の、驕りの象徴のように訳されてきた。 しかし、この作品の道長は、后位につけた娘たちからは憎まれ積年の友たちからは距離を置かれ、政の目的さえ見失った自分を客観視しており、驕るどころではない。 詠む声は静かで、どこか夢見るような口調である。見上げる望月は、まひろと結ばれたあの夜と同じ月……。 (あのとき「この夜は俺の人生で最高の夜だ」と思ったのだ。お前を得て、望月のように満たされたから) まひろが受け取った「このよをば」の歌の意味は、こうではなかったか。月光の雫のような煌めきも、自分を振り返り微笑む道長の表情──この歌のたったひとつの意味はお前だけに伝わればよいという笑みも、まひろにだけ見えているものだ。 満ちたものは欠けてゆく。繰り返される唱和の声は賑々しい祝賀とは程遠く、絶頂を迎えた藤原道長を弔う読経のようだった。 次週予告。敦康親王(片岡千之助)倒れる! 皇太后の涙。まひろが自分の手を握る道長の手を解く……「私の役目は終わったと申しました」藤式部が皆の前から消える? 賢子(南沙良)の女房装束とってもお似合い。 子猫がにゃー! 赤染衛門先生(凰稀かなめ)が執筆。安心しました。周明(松下洸平)うさんくさい髭はやして再登場 !!! 海辺を駆けるまひろは現実の彼女? それとも……。 46話が楽しみですね。最終回まで残り4話! ******************* NHK大河ドラマ『光る君へ』 脚本:大石静 制作統括:内田ゆき、松園武大 演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう 出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、見上愛、塩野瑛久、木村達成、南沙良、岸谷五朗 他 プロデューサー:大越大士 音楽:冬野ユミ 語り:伊東敏恵アナウンサー *このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。 *******************
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