こんにゃくでつくったマグロの味は──植物由来の「代替シーフード」が目指すもの
「遅れている」日本の水産資源管理
水産庁が発行している「水産白書」によれば、日本の漁業・養殖業生産量のピークは1984年で1282万トンだ。これが2019年にはおよそ3分の1、420万トンにまで落ち込んでいる。「世界で最も豊かな漁場」とも言われる日本の近海で魚が激減しているのだが、原因のひとつは乱獲だ。 「魚などの資源管理の面で日本は先進国最低です」 警鐘を鳴らすのは、地球環境ガバナンスを専門とする学習院大学の阪口功教授(50)。例えば日本には、漁獲量についての規制はあっても、国の施策として漁獲サイズの規制がないという。 「ごく一部の例外を除き国としての規制はありません。ノドグロ、キンメダイなどの高級魚も未成魚が大量に漁獲されています」 これから産卵する魚齢の若い小さな魚まで漁獲すれば、当然のことながら魚の全体数は減っていく。 「漁獲量が非常に多いサバ、マイワシ、アジなどについても、サイズ規制がまったくありません。そのため、小さなローソクサバや豆アジを大量に漁獲するというおかしな漁業が行われています」 この問題が顕著なのはサバだ。近海で大量に漁獲されているローソクサバは、国内で養殖のエサや缶詰に使われるほか、輸出へと回されていく。アフリカで安価なたんぱく源として食用に、メキシコではクロマグロ養殖のエサとなったりする。一方で、脂の乗った日本人好みの大型のサバは、ノルウェーから大量に輸入している。
漁業の未来ともいえる未成魚を大量に漁獲して輸出し、大型魚を海外から輸入するという、島国にしては矛盾する行為が続いているのだ。 「アイスランド、ノルウェー、ニュージーランドなど資源管理の先進国では、一定のサイズ以下のものを漁獲するとペナルティーが科されるなど、魚種ごとに厳格なサイズ規制があります」 世界でもとくに魚食のさかんな日本が、資源管理の遅れた国となってしまっている。
日本人の食卓から魚が消える?
天然の漁業に加えて、マダイ、ブリなどの養殖生産も減っていると阪口さんは話す。 「中国などで養殖魚に対する需要が高まっているため、養殖のエサとして使われる魚粉や魚油が高騰しています。これに耐えられない業者がどんどんつぶれています」 それなら海外からの輸入を……とこれまではしのいできたのだが、近年では日本の経済力の低下という問題が出てきた。 「他国に買い負けてしまうんです。だからカニ、サケ、タコなども、より高く買ってくれる欧米や中国に流れていく。昔は人気だったメロ(銀ムツ)も、いまでは日本に入ってくるのはカマの部分ばかりです」 日本人の大好きなクロマグロは地中海で養殖が、大西洋で天然ものが獲られているが、これも欧米や中国に売ったほうが値段がつく。今後も日本に入る魚の量はどんどん減っていく。乱獲に加えて、経済力の低下によって、日本人の食卓から魚が次第に消えつつあるのだ。