週55時間は「働きすぎ」、世界で年間約75万人が死亡、「顕著な影響は約10年後から」現れる
長く座っているだけでリスクは高まる
米国労働統計局によると、一般の労働者は1日に平均3.46時間座った状態で過ごす。オフィスワーカーであれば、この数字は1日に8~10時間に達することもある一方、肉体労働者では1日に1時間程度だ。 長時間椅子に座っていることはオフィスワーカーに長期的な影響を及ぼし、高血圧や2型糖尿病などの慢性疾患を発症するリスクを高める。そのリスクは、職場で過ごす時間が長いほど増加する。 「労働時間を増やせば、座っている時間も増えます」と、アイルランドのリムリック大学で座っている時間が健康に与える影響について研究するエイダン・バフェイ氏は言う。 では、座り過ぎとは、いったいどの程度なのだろうか? バフェイ氏によると、境目は1日8~10時間前後だ。座っている時間が11時間を超えると健康上のリスクが一段と高くなる。 仕事中に加えて、自由時間もテレビを観るなどの体を動かさない活動に費やしている人の場合、座りっぱなしの時間はあっという間に1日8時間を超える。 オフィスワーカーは、毎日長時間座っていると、首や腰の痛みなど、特定の使いすぎ障害を抱えるリスクが高い。「座っている姿勢は、背骨にストレスをかけるのです」と、米クリーブランド・クリニックの理学療法士ライアン・スタイナー氏は言う。 こうした健康の問題は運動によって相殺できる。週に平均150~300分の運動をする人は、明らかにリスクが下がる。また、数分間歩いたり、立って作業をするデスクに移ったりするなど、一日を通して椅子を離れる時間を少しずつ設けることも、悪影響の軽減につながる。
余暇か仕事かそれが問題、「身体活動のパラドックス」
ただし、肉体労働に従事している人の場合、運動が逆の効果を生む場合がある。余暇に身体活動を増やすことは心血管疾患の予防に役立つ一方で、仕事の一環として身体活動を増やすと心血管疾患のリスクが高まる。「身体活動のパラドックス」と呼ばれる現象だ。 このパラドックスが起こる理由はまだはっきりとはわかっていないが、ひとつの可能性としては、仕事では余暇とは異なり、身体活動の長さや強さをコントロールできない点が挙げられる。 「体が慢性的なストレス状態にあるということです」とバフェイ氏は言う。「それに、翌日にまた仕事をする必要があるため、彼らは体を回復させられません」 慢性的なストレスの影響は、バランスのとれた食事をとれない、睡眠を優先できないといった、その他のライフスタイル要因によってさらに大きくなる可能性がある。 一方で、エリートアスリートでは、身体活動のレベルが高くても悪影響は見られない。これはおそらく、彼らが競技でのパフォーマンスを維持するために、体を動かさないときには休息、回復、良質な栄養の摂取を優先する必要があるという事実によるようだ。