「ムヒ」、アンパンマン起用の理由 かゆみ退治の主人公 池田模範堂「ムヒ」(下)
「一番手商品」の提案で悩みを解決
「天下無比、唯一無比な薬を目指す」という、創業以来の志を貫く池田模範堂は「一番手商品の提案による悩みの解決を重んじている」(小嶋氏)。他社に類を見ない商品が多い理由だ。 社名は古風な響きだが、アプローチは先進的だ。デジタルトランスフォーメーション(DX)が盛り上がる以前から社内にグループウエアを導入し、情報の共有を進めてきた。社内ポータルサイトも構築し、研究所や生産拠点、営業などのチームをまたいだ交流の仕組みを設けている。効率的な顧客対応システムは商品開発の要だ。 「社内外からすくい上げた潜在的ニーズを手がかりに、新たな課題解決に向けた商品開発を続けている」(小嶋氏)。ハウスダストが引き起こすかゆみの治療薬「ムヒダストメル」は2021年に売り出した。翌2022年に発売した「オデキュアEX」はおでき(毛のう炎)治療薬だ。 ヒット商品を連発してきたようにみえるが、過去には撤退を余儀なくされた分野も少なくない。1996年には祖業の家庭用配置薬から撤退。サプリメントや介護用品からも手を引いて、一般用医薬品(OTC)に経営資源を集中させていった。「肌を治すチカラ」のスローガンを掲げ、自社の立ち位置を定めていく取り組みと、数々のヒット商品を生み出していく流れは同調しているように映る。
アルファベットへのロゴ変更で海外展開加速を視野に
公式サイトの左上隅に掲げられたロゴはアルファベットの「MUHI」だ。カタカナの「ムヒ」ではない。創業100年の節目に、「ムヒ」から「MUHI」へのCI(コーポレートアイデンティティー)に踏み切った。 視野に入れているのは、海外展開の加速だ。池田模範堂の海外展開は早かった。1962年には香港への輸出を開始。「無比膏」はヒット商品となったが、コピー商品にも悩まされた。1963年からはシンガポール、マレーシアへ輸出を始めた。2017年には台湾への輸出が始まった。 虫刺されの被害に遭いやすいアジア圏は有望な展開先だ。模倣品対策にも取り組んでいて、中国本土で「MOPI」のブランドで販売されていた類似品を巡る裁判で勝訴。著名なブランドを守る知的財産権管理の体制は「特許庁長官表彰を受賞した」(小嶋氏)。 1000円以下程度の手頃な価格の商品が大半だ。薬局やドラッグストアで買えるセルフメディケーション商品は頼もしい存在といえる。病院に行かずに済むから、時間や手間を省けるのもありがたい。 「たかがかゆみ」と軽んじるわけにはいかない。かゆみのストレスは生産性を落とすだけではなく、メンタルヘルスや睡眠、QOL(生活の質)も損ないかねない。皮膚は人体で最大級の臓器ともいわれるだけに、そこから生じるトラブルも種類が多い。それぞれの悩みに救いの手を差し伸べる池田模範堂のありようは、文字通り、かゆいところに手が届くかのようだ。