セブン&アイ創業家、急ピッチでMBO準備-クシュタールに対抗
(ブルームバーグ): わずか3カ月前、セブン&アイ・ホールディングス創業者の息子で、同社の副社長でもある伊藤順朗氏は、投資家に対して同社の魅力をアピールしていた。
株式新聞のユーチューブ動画に登場した順朗氏は、グローバル展開へのビジョンなどを説明しながら「皆さまにも株主になっていただいて、私どもの成長をぜひ一緒になって見守っていただきたいし、励ましをいただければと思っている」と訴えかけた。
その後8月下旬に、カナダのアリマンタシォン・クシュタールによる買収提案が判明し、セブン&アイを取り巻く環境は一変。伊藤氏も考えを変えたようだ。伊藤一族は伊藤忠商事と組み、総額9兆円で全株式を買い取るMBO(経営陣が参加する買収)を急ピッチで準備。セブン&アイに法的拘束力がない買収提案をしたことが13日に明らかになった。
MBO計画は、順朗氏の姉である山本尚子氏の後押しによるものだと、事情に詳しい関係者は話す。山本氏はセブン&アイの役員に名を連ねてはいないが、伊藤家の資産管理会社である伊藤興業の取締役として影響力を持っている。
100年の伝統
7兆円超のクシュタールの提案を受け入れれば、伊藤一族には巨額の利益がもたらされる可能性がある。ただ同時に一族が持つ事業への影響力に加え、源流である洋品店「羊華堂」の開店から100年超続いてきた伝統を絶やすことにもなる。
「伊藤家は日本企業であろうが外国企業であろうが、事業が第三者の手に渡ることを避けたいと考えている」。調査会社のジャパンコンスーミングの創業者であるマイケル・コーストン氏はこのような見方を示した。
セブン&アイは、同社の特別委員会が潜在的な株主価値実現のための全ての選択肢を客観的に検討しているとコメントした。順朗氏はコメントを控えた。山本氏に接触を試みたものの連絡がつかなかった。
セブン&アイに対するクシュタールの買収提案は、日本政府が進めてきた合併・買収(M&A)施策が企業に浸透しているかどうかの試金石としても注目を集めている。仮にセブン&アイがMBOを受け入れれば、伊藤家、伊藤忠、そして日本の大手銀行による協調的な対抗策として記憶に刻まれるだろう。