文化の交差点としてのアートフェア、Tokyo Gendaiの場合|今月のアートな数字
企画展、芸術祭、オークション、コレクションなど多彩な話題が飛び交うアートの世界。この連載では、毎月「数字」を切り口に知られざるアートな話をお届けしていく。このところ存在感を増しているアートフェアについて、ある創設者に思いを聞いた。 この数年で「アートフェア」について耳にする機会が増えたと感じないだろうか。近年のアートへの関心の高まりと連動して、その売買プラットフォームとしてのフェアに人が流れている。 とはいえ、そこは売り買いするだけの場ではない。会場にはテーマを設けた作品展示やアーティストを招いたトークセッション、子ども向けのプログラムなども用意されており、ちょっとアートに興味がある人でも楽しめるものになっている。 「それでも、フェアにとってのクライアントはギャラリーです。出展した彼らの成果にならなければ継続できなくなってしまうので」と言うのはTokyo Gendaiの共同創設者、マグナス・レンフリュー。言い換えれば、ギャラリーの満足のためにいかに著名コレクターや美術館関係者、未来の購買層を呼べるか、が根底にある。 “世界水準のアートフェア”として2023年に誕生したTokyo Gendaiは今年も7月初旬に横浜で開催され、特にVIPである初日は昨年よりも来場者の国籍も幅広く、活気があるように映った。セールスとしても、ロバート・ロンゴの新作の75万ドル(約1.1億円)など、二桁万ドルの作品も多数売れ、主催側が出したレポートによれば昨年より総売り上げも大きそうである(明確な数字は非公開)。
良いフェアとは、人やアイデアなど文化が交差する場
レンフリューは2000年代後半、ギャラリーが2つしかなかった香港でアートフェアを立ち上げた人物だ。このフェアはその後「アート・バーゼル香港」としてリブランドされ、金融ハブだった香港が文化のハブへと変革する一躍を担った。成功の秘訣はローカライズだ。 「例えば、当時はベルリンに勢いがありましたが、それをそのままもってきても意味がない。今ほど“多様性”が叫ばれる時代ではありませんでしたが、白人男性主義とされるアート界で独自のポジションを築くには、参加するギャラリーの地理的な多様性と品質が重要だと考えました」と振り返る。 開催地の文化に敬意をもち、ローカルとグローバルのバランスをとる。それはTokyo Gendaiでも同様だ。また日本に関しては、昨今の強力なインバウンド需要を受け、都内のギャラリーや美術館訪問、地域の文化をめぐるツアーなど、日本自体を体験できるプログラムをVIP集客の引きとしている。 「例えばフェアの前に山梨や箱根にお連れするのですが、意外なことに国内ゲストの参加も多くありました。こうしたツアーはコレクター同士の交流の場にもなっています」 アジアにコミットして約20年、そのアート市場は想像以上に成長しているという。経済成長やデジタル化、旅の安易化などにより、国際的なコレクターが増えたこと、その目利きが洗練されてきていることが理由として大きい。 「アジアにフェアが増えすぎているという指摘もありますが、世界人口の約半分がいる地域ですから、まだまだ成長できます。良いフェアとは、アートのみならず、人やアイデアなど文化が交差する場です。商業的な面と文化的な役割、その両輪を追求していきたいですね」 マグナス・レンフリュー◎The Art Assembly共同会 長兼グローバルディレクター /Tokyo Gendai共同創設者。長年国際アートの世界で活躍、複数のフェアを手がける。
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