「送料無料が当たり前 世の中おかしい」過労死遺族が訴え トラック運転手不足、招く長時間労働
「わしの敵を討ってくれ」。岡山過労死を考える家族の会代表の中上裕章さん(48)=岡山県倉敷市=は、過労を理由に自殺したトラック運転手の父孝志さんが死の直前に繰り返した言葉が忘れられない。 【グラフ】脳・心臓疾患の労災申請件数の推移 孝志さんは2000年3月、命を絶った。53歳だった。地元運送会社の労働組合で副委員長として上司の不正を追及したことから疎まれ、時間外労働が毎月100時間を超える長時間勤務を強いられていたという。 中上さんは13日、愛媛県松山市で厚生労働省主催の過労死防止シンポジウムに登壇した。テーマは「2024年問題」。今年4月から時間外労働の上限規制がトラック運転手に初めて適用されたことによる物流への影響を指す。 中上さんは、労災申請が退けられた後、会社を相手に民事訴訟を起こした経験を語った。「部品の配送で倉敷と愛知県の自動車工場を往復する仕事のはずが、広島や島根も回らされた。燃料代節約のため車のエアコンも使えなかった」 国の規制緩和で運送業者が急増した1990年代から、過当競争で運転手の賃金水準は低下した。全日本トラック協会によると、道路貨物運送業に携わる50歳以上の比率は、10年の33・7%から23年には49・7%に上昇した。24年9月の有効求人倍率は全産業の1・24倍に対し、自動車運転従事者は2・62倍。高齢化と人手不足が顕著だ。 2024年問題は、物流の停滞を問題視する観点で語られがちだが、中上さんは「運転手の立場で考えて」と訴える。労働時間の短縮は収入減につながる。人手不足に拍車がかかり、現場は無理を強いられる―。 長時間労働の背景には、荷主優位の商慣行もある。荷主の都合のいい時間に配送するため、運転手は路上や高速道路の駐車場で待機を強いられる。荷主からの連絡に即応しなければならず、気を抜けない。「負の連鎖を断ち切るには、荷主に負担を求めて運転手の待遇を向上させないと。『送料無料』が当たり前の世の中はおかしい」と力説した。 「父の手伝いで缶コーヒーを詰めた6千個の段ボール箱を降ろしたことがある。『こんな過酷な仕事があるのか』と驚いた」と中上さん。運転手が荷物を一つずつトラックに積み降ろしする「ばら積み」も常態化している。脳・心臓疾患を理由にした業種別の労災申請件数は、自動車運転従事者が他業種を圧倒して多い。 中上さんは少年時代、トラックで全国を駆け抜ける父に憧れた。日本の貨物輸送の9割を担うトラック運転手の自負も感じた。「大きなトラックを自在に操る姿は文句なく格好いい。生活苦を心配せず、体に負荷をかけずに働ける労働環境にしないと、運転手の過労死はなくならない」と警鐘を鳴らす。