「ハイヒール」履くと脚が長く見える…理由は? 心理学者が明かす“トリック”
ハイヒールを履くと脚が長く見える理由は?
それでは、こうした仕組みを基にハイヒールを履くと何が起きるのかを考えてみましょう。図2を見てください。 私たちはこれまでの経験から「すねの下端、つまりくるぶしがあるのは、足が前に折れ曲がっているあたりだ」ということを知っています(1-1)。また「一般的な靴はくるぶしから下あたりを隠している」、つまり、「靴で隠れていないところから上がすねだ」ということも知っています(1-2)。 このような経験や知識を基にハイヒールを見ると、どうなるでしょうか。ハイヒールはかかとを高い位置にして、足が折れ曲がる位置を足の指の方にずらしています。また、多くのハイヒールは、足の甲を隠さないデザインになっています。 (1-1)と(1-2)に従ってハイヒールを見た人の脳は、すねの下端を足の指の直前あたりだと勘違いするのです。つまりハイヒールを履いた人は、「見た人が認知するすねの長さ」を延長することに成功します。
脚の長さを勘違いする仕組みとは?
認知的なすねが延長されると、もう1つの勘違いが発生します。図3を見てください。私たちは経験から「すねとももの長さはだいたい同じ」ということを知っています(5)。この知識は、ももの上端(胴と脚の境目)がどのあたりかを推定する手がかりとして使われます。 (5)に従って全身を見た人の脳は、長いと思い込んだすねと同じ長さのももが膝の上にあると思い込み、その上端あたりが胴と脚の境目だと認知するのです。 すねの延長量は、個人の脚の大きさやヒールの高さ、ハイヒールのデザインなどによって異なりますが、仮にすねの長さを通常よりも10センチ長く認知させることができれば、相手はももの長さも10センチ長く認知するため、その結果、脚の長さを20センチも長く見せることができます(ついでに、ももの延長分だけ胴を短く見せることもできます)。身長の10%以上も脚を長く見せ、胴も短く見せられるわけですから、スタイルの印象が大きく変わります。 つまりハイヒールを履いたらスタイルがよく見えるのは、私たちの脳が、経験や知識によって勘違いするからです。もし脳にこのような特性がなく、見たものをありのままに捉えていたら、ハイヒールを履いた人は「スタイルの良い人」ではなく「ちょっと変わった形の靴を履いた普通のスタイルの人」に見えてしまうのです。 こういった脳のおっちょこちょいな特性は、エラーや情報伝達の失敗の原因になるため、安全やコミュニケーションの分野ではちょっとした厄介者として扱われています。しかし、ファッションの分野では、私たちを実態よりもすてきに見せてくれる、ありがたい特性なのかもしれません。 このような脳の勘違いがおしゃれに利用されている例は、ハイヒールに限らず、衣類の形や色のほか、髪形やヘアカラー、メーク、ネイル、アクセサリー、写真を撮るときのアングル・背景など、周囲の至るところにあります。ぜひ日常生活の身の回りにあるものを観察し、脳の不思議な働きについて、考えてみましょう。
近畿大学生物理工学部准教授 島崎敢