朝ドラ『虎に翼』の快進撃が止まらない。奥深い脚本、寅子たち登場人物の性格設定、置かれた立場が迫真性を産む
◆登場人物の置かれた複雑な立場 朝ドラことNHK連続テレビ小説『虎に翼』の快進撃が続いている。吉田恵理香氏(36)が書く脚本の奥深さが大きな理由なのは説明するまでもない。 【写真】まさか、この2人が…相続争いは紛糾 脚本の深さは登場人物の性格設定、置かれた立場にも表れている。通り一辺ではない。その分、迫真性が生まれている。 主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の明律大法学部の同級生・崔香淑(ハ・ヨンス)も置かれた立場は単純ではない。香淑は大戦の戦況が悪化した第28回(1938年)に母国の朝鮮へ帰ったが、第53回(1948年)から再登場している。司法省(現・法務省)での寅子の上司・汐見圭(平埜生成)の妻となっていた。 ところが香淑は寅子との再会を喜ばない。目すら合わそうとせず、寅子が「ヒャンちゃん」と本名で呼んだところ、「その名前で呼ばないで」と露骨に嫌がった。今は香子という日本名を名乗っているという。その後も心を開こうとしない。 香淑は本名を捨てただけでなく、明律大時代の過去も忘れたのだろか。いや、それは違う。第57回(1949年)にはっきりした。
◆巻き込むのを避けたい 汐見は最高裁判所家庭局長の多岐川幸四郎(滝藤賢一)に連れられて、轟法律事務所を訪れた。やはり明律大の同級生である弁護士・轟太一(戸塚純貴)、助手・山田よね(土居志央梨)がやっている。戦災孤児たちの拠り所だった。 汐見はよねと会うなり、「よねさん、あなたが・・・」と声を上げた。よねは「あん?」と相変わらず無愛想だったが、汐見はうれしそうだった。香淑が明律大時代を美しい思い出として汐見に語っているからにほかならない。寅子たちを嫌っているわけではないのだ。 では、どうして寅子たちを遠ざけようとしているのか。世間には朝鮮人への偏見があるからだ。それについては第54回(1948年)に多岐川がこう口にしている。 香淑について寅子が多岐川に対し、「私に出来ることはないのでしょうか?」と問うたところ、多岐川は「この国にしみついている香子ちゃんに対する偏見を佐田くんに糺す力はあるのか!」と一蹴した。簡単な話ではないのである。 朝鮮人と近しい日本人も偏見の目を向けられたという現実がある。悲しいことだが、香淑は寅子らまで自分の苦境に巻き込むのを避けたいのではないか。 もっとも、この朝ドラのテーマは男女差別や民族差別、貧富の差による差別などを禁じた憲法第14条の「法の下の平等」だ。このままで終わるはずがない。
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