朝ドラ『虎に翼』の快進撃が止まらない。奥深い脚本、寅子たち登場人物の性格設定、置かれた立場が迫真性を産む
◆よねの本当の気持ち よねは寅子の結婚や妊娠に腹を立てているわけではないだろう。よねは父親に売り飛ばされそうになった過去があり、天涯孤独の身だった。やっと寅子という同志が出来たと思ったら、自分は妊娠について相談されなかった。ショックを受けたのだ。 それは第60回(1949年)にはっきりした。よねは自分と寅子の関係を「ほんの一時、重なったこともあったが、所詮あたしたちは歩いている道が違う」と言い放つ。さらに「いつ、いなくなるか分からん奴の言葉は届かない」とも言った。 傷ついた寅子が去ったあと、2人の会話を陰で聞いていた轟が「やっとお前の気持ちを理解した」と言う。そして、こう続けた。 「佐田が去ったとき、おまえは心の底から傷ついた。だから怖いんだな、また関わるのが」 家族のいないよねは心を許した友人との別れを恐れている。
◆一筋縄ではいかない穂高重親 寅子の恩師で明律大教授の穂高重親(小林薫)は複雑極まりない。なにしろ腰痛の仮病まで使う人なのだから、一筋縄ではいかない。しかし、その本質がようやく見えてきた。先々のことを見据え、憎まれ役を買って出ている。 寅子が妊娠を隠して弁護士活動を続け、倒れてしまった直後の第39回(1942年)も憎まれた。穂高は寅子の勤務先だった雲野法律事務所に妊娠を明かし、寅子を半ば強引に辞職させてしまったのだから。 しかし、穂高は「弁護士の資格は持っているのだから、仕事への復帰はいつだってできる」と説くことも忘れなかった。穂高は女性が出産と育児を終えた後も、希望するなら働くべきだと考えていたのだ。 第49回(1947年)と同50回(同)での穂高はもっと強引だった。司法省入りしていた寅子に対し、家庭教師に転職することを勧める。 「この道に君を引きずり込み、不幸にしてしまったのは私だ」 寅子は憤怒する。当然だ。
◆法曹界の希望の光に 「先生は何も分かっていらっしゃらない」 もっとも、すべて穂高の芝居に違いない。この時点まで寅子は「謙虚になった」「大人しくなった」と言われていた。それでは寅子ではなくなってしまうと考えたのだろう。 穂高の真意の一端が明らかになったのは第56回(1949年)。寅子に対し東京家裁判事補の辞令を渡される直前、最高裁判所人事課長の桂場等一郎(松山ケンイチ)と最高裁長官・星朋彦(平田満)の間で、こんなやり取りがあった。 「長官、彼女が例の・・・」 「穂高先生の希望の光だね」 寅子は何のことやら分からず、ポカンとしていた。穂高は寅子が法曹界を変えると信じている。光なのだ。 文責◎高堀冬彦(放送コラムニスト)
高堀冬彦
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