朝ドラ『虎に翼』の快進撃が止まらない。奥深い脚本、寅子たち登場人物の性格設定、置かれた立場が迫真性を産む
◆大庭梅子の家庭の相続問題 第61回(1949年)から再登場した同級生・大庭梅子(平岩紙)も置かれた立場が複雑だった。この物語に梅子が帰ってきたのは夫で弁護士の徹男(飯田基祐)が亡くなり、遺産相続問題が浮上したから。寅子が東京家庭裁判所の特例判事補として調停を担当することになった。 在学中から3人の息子がいた梅子の存在は寅子たちにとって実姉のようだった。梅子は家庭では徹男に虐げられていたものの、寅子たちにはやさしく接していた。 寅子の父親・猪爪直言(岡部たかし)が共亜事件で逮捕されたのに弁護士が見つからずに困っていた第20回(1935年)には、梅子が徹男に土下座して弁護を頼んだ。「お願いします」。冷酷な徹男はこれを一蹴した。それなのに自分の死の後始末が寅子に託されるのだから、皮肉なものである。 3人の息子と姑、愛人の要求はそれぞれ違っており、梅子は苦しむ。 しかも、信頼していた三男の光三郎(本田響矢)は徹男の愛人・元山すみれ(武田梨奈)といつの間にか交際しており、愕然とさせられた。第64回(1949年)に分かった。
◆新たな幸福を目指して もっとも、梅子は悲しまず、それどころか高笑いを浮かべ、大庭家から去って行く。「ごきげんよう!」。相続権も放棄し、家から出て行った。 どうして梅子は強くなれたのか。それは同じ第64回の寅子によるラジオでのスピーチを聴いたことが背景にある。女性向け情報番組に出演した寅子は「私はご婦人方をかよわいとは思っていません」と力を込めたあと、憲法と民法の改正によって女性の境遇は変わったと説いた。 「やっと戦うことが出来る、報われる、誰かの犠牲にならずに済むようになった。女性たちが自ら幸せを掴み取ってほしいと思います」 梅子は自分も新たな幸福を掴み取らなくてはならないと考えたのだ。
◆よねと轟、寅子との再会 大庭家から梅子が出ていく際、よねが居合わせた。轟とともに梅子から相続問題の代理人を任されていたからだ。 梅子が家族から離れるとき、よねはうれしそうに笑った。無論、揉め事を嘲笑したのではない。第35回(1941年)のよねの言葉を思い出す。 寅子が社会的地位を得るために佐田優三(仲野太賀)との結婚を決めたときだった。よねは「逃げ道を手に入れると人間弱くなるもんだぞ」と説いた。今度は梅子が退路を断ったから、よねは祝福する意味もあって笑ったのだ。 第56回(1949年)に寅子と再会したよねも置かれた立場と人間性は単純ではない。まず、誰よりも勉強熱心で、弱者救済という崇高な理念がありながら、弁護士資格はない。『ブラック・ジャック』を彷彿させる。 よねと寅子が再会したのは轟法律事務所。寅子から「(轟と)2人はここで弁護士を?」と問われたよねは「資格がないのに、どう弁護士になる」と冷たく答えた。2人は寅子が妊娠によって弁護士を辞めた第39回(1942年)から絶交している。
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