EV時代の到来はむしろ原点回帰! T型フォードが登場するまでクルマといえば電気自動車だった
T型フォード登場でガソリン車の時代へ
電気自動車については、フォルクスワーゲンタイプ1を構想したドイツのフェルディナント・ポルシェ博士も、1900年に製作した最初のクルマは電気自動車であった。ただし、当時からバッテリー性能の低さが課題であり、走行距離を延ばすため、エンジンを発電機として使うハイブリッド車が彼の自作2台目となった。 性能面では、時速100kmに最初に到達したのも電気自動車である。ベルギー人のジェナッツィが製作したジャメ・コンタントが、1899年に時速106kmを記録した。 こうした電気自動車優勢の時代が終わったのには、ふたつの理由がある。ひとつは1900年に米国テキサス州で掘り当てられたスピンドルトップと呼ばれる巨大油田だ。もうひとつが、T型フォードの出現である。 エジソンが白熱電球を発明するまで、夜を照らす人々の明かりはローソクとランプだった。石油産業は、ランプ用の灯油が売り上げのほとんどを占めていた。ところが、エジソンの発明により電灯が普及すると、灯油販売が激減した。そのとき、T型フォードの出現が重なる。石油から灯油を生成する際の残りかすとして扱われてきたガソリンが、T型の普及によって売り上げを伸ばすのである。 スピンドルトップとは、テキサス州の巨大油田である。それまで石油はカリフォルニア州で採掘されていたが、西海岸のカリフォルニアでは、大陸中部や東部への輸送に手間がかかる。テキサス州なら大陸のほぼ中央にあり、全米どの地域へも輸送の利便性が高まった。なおかつ、巨大油田である。 こうして、20世紀の石油の時代がはじまる。そしてガソリンエンジン自動車が、フォードT型の大量生産による値下げも手伝って一気に広がり、時代を築くのである。ことに米国では、1960年代まで1ガロン(約3.8リッター)10~30セントで推移し、「ガソリンは水より安い」とさえ当時はいわれていた。 方や電気自動車は、その後、旭化成に在籍していたノーベル賞受賞者である吉野 彰によってリチウムイオン蓄電池が発明されるまで大きな進化はなく、21世紀になって、ようやく再び日の目を見るようになるのである。
御堀直嗣