育児漫画でママやパパに笑顔を 子育てに感じた課題
「自分の気持ちを立て直すことができた」
そうして社内のメンバーの力も借りてミーティングを重ねたことで生まれたアイデアが、目の前を猛スピードで通り過ぎていく子育て時間の一コマを、ノンフィクション漫画にして提供するというサービスだった。大きなヒントをくれたのは、社内の会議やブレストの内容を、イラストに起こして会議録にする「グラフィックレコーディング」という技術を持った同僚たち。どんな会議もイラストになると、聞いているだけでは気がつかなかった、リアル以上にリアルな面が見えてくることも多い。 ビジネスコンテストでは投資ファンドが支援の手を挙げ、晴れて会社が設立された。社内ベンチャーとして会社の子会社となるか、ベンチャーとして独立するかは、この先一定数の会員を集めてから、数年後に決定される予定だという。 とはいえ、サービスは動き始めた。ローンチから約3カ月。実際にノンフィクション漫画のオーダーをしたパパやママからは、「子供を抱きしめたくなった」という声や、「育児の葛藤が、漫画になったことでよい思い出に変わった」といった声も寄せられた。なかでも原田さんの心に残ったのは、「できあがった漫画を読んだ後に、自分の気持ちを立て直すことができた」というママの感想だった。 「このサービスをやってよかったと思いました。また過ぎ去っていきがちな日常のできごとを記録して、ママのパパとのコミュニケーションのきっかけになればいいとも思っていました。でも蓋(ふた)をあけるとパパが応募してくれるケースも多くて、それもうれしい誤算でした」 今はAIなど最新技術の手を借りて、サービスの料金を安くすることが課題に。一方、子育て家族に特化したアンケートに答えるとおこづかいがもらえるサービスのほか、LINEで顔写真をアップすると似顔絵を購入できたり、手のひら写真をアップして手相占いができたりするサービスなども近日中にスタート予定だという。 そんな原田さんに聞いた。第2子を出産して、新しい自分に大きく舵(かじ)を切った30歳からの人生の道筋を示してくれたコンパスとなったものは何ですか? 「一番のモチベーションになっているものといえば……子供たちにどういう背中を見せたいかということが、私の大きな原動力になっていると感じています。大企業に入っただけで人生が約束される時代ではない。勉強して、スキルを身につけて、自分が興味のある分野で生かすなど“やりたいこと軸”で動くのが大事と思っています。そんな私の背中を見て、子供たちにも道を選んでほしいなと思うんです」 そう話す原田さんの前には、さらなる大きな夢も広がっている。育児にも生かせるはずのAI技術の最先端に触れられるシリコンバレーで、いつの日か働くことだ。 「もちろん子供も連れていって、子供のうちに視野を広げてもらうことも夢です」 30代で始まった原田さんの旅は、まだ帆を上げたばかりだ。 「Nicomic」のサイトはこちらから 文:福光恵 写真:野呂美帆
朝日新聞社