「ちょっとした小遣い稼ぎ」名義貸して報酬5万円 特殊詐欺に悪用か、ペーパー会社設立の手口とは
無資格で会社設立の登記を行ったとして、京都府警捜査5課や外事課は11月13日、司法書士法違反の疑いで、京都市南区の中国籍の会社役員の女(34)ら男女3人を逮捕した。府警は、経営実態のない多数のペーパー会社を設立して開設した法人口座が、特殊詐欺グループによる詐取金の振込先として使われていたとみており、交流サイト(SNS)でつながって犯罪を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」との関連を調べる。 【写真】容疑者らの関係先の捜査の様子 ■協力者は20~80代、主婦も 司法書士法違反容疑で京都府警に逮捕された3人を知り、ペーパー会社の設立に関与した50代男性が、京都新聞社の取材に手口を明かし、「名義さえあれば、1社の申請書を書くのに1時間もかからなかった」と証言した。 男性は、63歳の会社役員の男が経営する京都市伏見区のコンサルティング会社に勤務していた。昨年夏から秋にかけ、男らの指示を受け、言われるままに法務局に提出する約30社分の法人設立登記申請書を作成したという。 男性によると、男らは「ちょっとした小遣い稼ぎをしないか」のうたい文句で、知人を通じて、法人の代表者の名義人となる協力者を募集した。名義を貸すと、報酬は約5万円。複数の法人分の名義を貸す人もいた。3人は協力者から実印や印鑑証明書、身分証を預かり、申請書を作成したという。 「生活困窮者や犯罪歴のある人を狙い、名義を貸してくれる人を『闇バイト』のような形で募っていた」。男性はこう打ち明ける。協力者は20代から80代までさまざまで、法人代表者のリストには、千葉県や鹿児島県など各地の住所がずらりと並ぶ。中には主婦もいたという。 ■法人口座は犯罪組織が高値売買 3人はこうした手口でペーパー会社を登記し、ネット銀行で法人口座を開設。男性は「口座は中国人やベトナム人のグループに売られ、特殊詐欺などの犯罪収益が振り込まれていたようだ」とも証言した。「たくさんの法人設立の書類を作ってしまった。犯罪行為の加担に気付けなかった」とうつむいた。 捜査関係者などによると、中国籍の女(34)と会社役員の男(56)は、在留資格の取得を手助けするブローカーの顔も持っていた。名義貸しの協力者を募る手口以外に、両容疑者が中心となり、「経営・管理」など長期の在留資格を求める中国人らの依頼を受ける形でペーパー会社を設立し、法人登記するケースもあったという。 3人が開設にかかわったとされる法人口座は「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」に欠かせない道具となった可能性が高い。静岡大の遠藤正之教授(金融情報システム)は「銀行からすれば、きちんと書類と手続きが整えば、新興企業の口座を開設する。ペーパー会社かどうかを見抜くのは難しい」と指摘。その上で「法人口座は信頼性が高く、犯罪組織の間で高値で売買されている。安易な名義貸しは、犯罪への協力に等しいと周知していく必要がある」と警鐘を鳴らす。