「孤立する人がいない、あらゆる人に居場所と出番がある」福岡県北九州市の注目のまちづくり[FRaU]
「困窮者に限らず介護とか福祉を必要とする人たちに対して、しきりに自立支援とか社会復帰が大切だって言うでしょ。でも35年間、支援活動をやってきて思うのは、果たして今あるのが“復帰したい社会”なのかってことなんです。実際、ホームレスの人が自立支援によって家を得て再就職しても、孤独死や自殺をしてしまうようなケースをいくつも見てきました。その度に痛感したのは、自立が孤立で終わったらダメなんだということ。ホームレスとは物理的に家がない状態ではなくて、社会的なつながりがない状態。家を得て“ハウスレス”から脱しても、それは“ホーム”を持ったことにはならない。社会的な孤立という問題は残り続けるんです。そしてそういう本当に困った人ほど『助けて』と声をあげづらいというのが現状です」
社会とのつながりを取り戻すカギは まちがホームになる“なんちゃって家族”
どれだけ個別支援をしても、復帰した先にある社会や地域が変わらなければどうしようもない。奥田さんを「希望のまちプロジェクト」に駆り立てたのは、そんな思いだった。 「かつては路上だけで見られた困窮の風景は今、社会全体に拡大しています。貧困・格差・孤立は常態化し、子どもだって例外ではない。その背景には極端な自己責任論の蔓延や単身世帯の増加、地域のつながりの消失など様々ありますが、とにかくみんながバラバラ。でも昔あった地域や家族のあり方に戻ろうといっても無理なんです。だから新しく作る。家族機能を社会化するということが『希望のまち』の大きな目的のひとつです」
奥田さんいわく“なんちゃって家族”。それを象徴するのが互助会の存在だ。 「困窮者や高齢単身者だけでなく、地域の人やボランティアなど誰でも参加できる会で、バス旅行に行ったり、一緒にお茶を飲んだり、日常的に楽しく過ごせる場です。最後の役割はお葬式ですね。血縁とか関係なく弔って見送る。納骨だってみんなでしますよ。抱樸でも同様の活動を行っていますが、その結果、高齢単身者に対する賃貸物件の貸し渋りがなくなりました。入居者が亡くなった後、引受人になってくれる人がたくさんいますから、貸す側も安心なんでしょう。そんなふうに、どんどん家族の概念が広がっていけば、まち全体がみんなの家族、ホームになれるんじゃないかと考えているんです」