超攻撃的柔道で女子最重量級初出場初Vの19歳素根輝が五輪金メダル空白を埋める?!
柔道の世界選手権の女子78キロ超級が31日、東京・日本武道館で行われ、素根輝(19、環太平洋大)が初出場初優勝を果たした。大会連覇を狙った朝比奈沙羅(22、パーク24)は、準々決勝で敗退したが、敗者復活戦から勝ち上がって銅メダル。激しい代表争いについて全日本女子の増地克之監督は「素根が一歩リード」という見解を示した。成長途中の2000年生まれの19歳が、2004年のアテネ五輪以来、16年間空白の最重量級金メダルを東京五輪で狙う。
「どんな勝ち方でも絶対に勝つ」
目の前で東京五輪の出場権を争うライバルが負けた。 順当にいけば準決勝で対戦する予定だった朝比奈が準々決勝でカイラ・サイト(トルコ)に3つの指導をもらい不完全燃焼の形で連覇を逃したのだ。 「負けたところは見たのですが、自分の試合だけに集中してやりました。そのことは考えず、目の前の相手を一人一人、倒していくという気持ちでやりました」 素根の準々決勝の相手は、昨年の銅メダリストのセリッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)。「朝比奈が負けた影響があったのだろう、入りはよくなかった」(増地監督)と得意の組み手で釣り手を取れず序盤に苦戦したが、粘り強く背負い、得意の体落としと担ぎ技を出し続けて3つの指導が相手に重なって反則勝ちで準決勝への進出を決めた。 準決勝は朝比奈を破ったサイトとの対戦となったが、まるで彼女の悔しさをぶつけるように開始早々に体落としで、投げ伏せると、そのまま道着を離さず、袈裟固めで押さえ込み、わずか27秒で料理してみせた。 決勝の相手は、最重量の最強女王だった。世界ランキング1位。ロンドン五輪金、リオ五輪銀のイダリス・オルティス(29、キューバ)。増地監督が「来年の五輪でも最大のライバルになっていく」という最強柔道家である。 素根は2つの勝利方程式を言い聞かせていた。 「相手のペースにならないように自分のペースで最後まで攻める」 「頭を下げないこと。相手の組み手になると不利」 右組みのオルティスは、左組みの素根に対して逆1本背負いを仕掛けてくる。素根には、我慢の柔道が続くが、「しっかり持てた」という組み手から前へ出続けた。 両者に指導が与えられ、残り48秒で、素根は、「相手の釣り手を首を抜いて外した」との理由で、反則負けに“王手”となる2つ目の指導を受けてしまった。 試合はゴールデンスコアの延長戦へと突入した。 死闘となった。1分過ぎにオルティスに指導が行き、指導の数は2対2の互角になった。3分が過ぎ、キューバ人は目に見えて消耗してきた。息が上がり腰に手をやり動きがスローモーになってきた。 逆に若さとスタミナが武器の素根は攻撃のテンポが落ちない。162センチ、110キロの小さい体ゆえの長所である。体落としで素根が引き落とす。時計は4分を過ぎた。素根が小内刈りからプレッシャーをかけて前へ前へと押し込むと、オルティスはまるで戦意を喪失したかのように場外へ下がってしまった。メダルコレクターの心を折った瞬間だった。審判は、3つ目の指導をキューバ人に送った。 天を見上げるようにして素根は泣いていた。 「本当に強い選手なので、何が何でも勝つという気持ちで、どんな勝ち方であっても絶対に勝つという気持ちで戦いました」 執念があった。 可愛い目をクリクリさせて素根が言う。 2000年生まれの19歳。南筑高2年時に体重別で高校生として21年ぶりに優勝、高3では、体重別を連覇し、初出場となった全日本でも朝比奈を破って高校生として24年ぶりに王者となり、「超新星現わる」と話題になった。国内では朝比奈に5連勝中。だが、昨年の世界選手権は個人での出場は逃し「世界の実績が足りない」とされていた。 「この世界選手権で優勝することが選考に影響すると思っていた、だから勝ちたいと思っていたので良かった」 素根は、今大会にすべてをかけていた。