浜松餃子なんて無い? 餃子日本一の裏側(下)──ブーム喜べない餃子店
浜松餃子の知名度のおかげで県外からも注文が来るけれど、光孝さんは「地域密着が1番いい」と語る。1、2週間に1回は買いに来てくれる浜松の人たちが店を支えてくれる。1番期待されているのは、味だろう。味と売り上げを両立させるために販路を広げすぎない方がいいと考えている。 取材を通じて、浜松に根付き、評価されてきたギョウザの味は確かにあると感じた。けれど、全国区のブランドになった浜松餃子とは何かが違う。かずのギョウザは円形じゃないし、モヤシもつかない。ブランド化には浜松餃子として一まとめにする必要があるけれど、味は店によって違い、浜松市民もひいきの店はそれぞれ違う。日常に根付いているから、それが特別な食べ物だと言われてもなかなかピンとこない。でも思い入れは強いから、変にまとめられると違和感を覚える。地域の特色をブランドにするとき、1番の味方になるはずの地元の人が距離を置いてしまう構図がこうして生まれていた。 ご当地グルメを発掘し、売り出すときは、メディア受けのよい分かりやすさだけを追い求めず、店ごとの個性も丁寧に発信してほしいと願う。宇都宮餃子会の直営店「来らっせ」では宇都宮の32店舗のギョウザを仕入れ、食べ比べしやすいように工夫する。別の町では、ご当地グルメのマップに店ごとの特徴を書き込み、違いをアピール。新しく町に引っ越してきた人らが食べ歩きをしやすいようにと意識する。「新しく来た土地の食文化を味わうと、その町の一員になれた気分になると思うから」。 かずの引き戸ががらりと開き、白髪交じりの男性(70)が入ってきた。定年退職後に東京から浜松に引っ越し、この店のギョウザのとりこになったという。「野菜が主だから健康にもいいでしょ。10日に1回は食べるし、横浜の娘家族も好きだから、もう4、5回は送っている」。 筆者もかずのギョウザをほお張った。味付けは濃すぎず、家庭的で、パクパクと何個でも食べられる気がした。 (この記事はジャーナリストキャンプ2015浜松の作品です。執筆:福岡範行、デスク:開沼博)