多様性を気にしている時点で多様性じゃない──「地球人」ウルフ・アロンという生き方
「多様性」と言わないと分からない人もいる
東京五輪で金メダルを獲得した直後の公式会見。彼は“オリンピックの多様性”について聞かれていた。多様な人種が競技に出場する現代の五輪において、ウルフ・アロンもまた、“ハーフ”という立場から、その答えを求められた。 当時、こう答えている。 「最近は“ハーフ”のアスリートが増えてきている。日本の多様性というのがもっと広まっていったらいいと思います」 彼が語った“日本の多様性”とは何なのか。その真意について改めて聞いた。 「今の世の中は、そういう生き方を大切にする流れになっているので、聞かれたんだと思います。そもそも僕のように多様性を具現化したような人間の口から多様性という言葉は出てこないですよ。世の中がそういう流れになり、多様性という言葉が強調されたりしているけれど、それを言わないと分からない人もいるはずです」
彼の言葉はさらに熱を帯びる。 「僕はこの日本で生まれて育って、柔道を始めて、今も日本代表として試合をしてる。もしこれがアメリカ生まれで、柔道もアメリカで始めて、実力があればアメリカ代表としてやってるでしょう。だから俺は日本人だ、俺はアメリカ人だっていう、アイデンティティー的なものはないですね。もう本当に一人の地球人としてやってる感じです」 どこかで聞いたことがあるようなセリフに「(サッカー元日本代表の)本田圭佑さんが地球人と言っていた」と伝えると、周囲にいたスタッフが「完全に二番煎じ」とちゃかす。すかさずウルフ・アロンは「でも本田さん、オリンピックで優勝していないから(笑)」と笑い飛ばしていた。
誹謗中傷を受けても自分の信念を貫いた
しゃべるのは好きだという彼のもとには、メディアからの出演依頼が殺到した。テレビだけでなく、一日署長やボクシング、プロレスのゲストに呼ばれ、ボートレースの中継からも声がかかる。あらゆる仕事が舞い込むのは、その明るいキャラクターが買われたからにほかならない。 「新聞や雑誌の取材、テレビ出演や講演なども合わせると100本は軽く超えてたんじゃないかなと思います。オリンピックで優勝した達成感がありすぎて、柔道の普及にモチベーションを移していった時期でした。柔道の試合はものの数分ですし、実際に見ないと誰なのかも知られないわけです。柔道のこと、自分のことを少しでも知ってもらうタイミングがあるんだったら、どのような入り口でもいいから知ってもらおうと思って活動していました」