第61回ヴェネチア・ビエンナーレの芸術監督が決定。黒人女性をディレクターに起用するのは同芸術祭初
アフリカで最も注目度の高いキュレーターの一人であるコヨ・クオが、2026年のヴェネチア・ビエンナーレの芸術監督を務めることが決定した。 【写真】第60回ヴェネチア・ビエンナーレの様子を振り返る カメルーンで生まれ、スイスで育ったクオは、2015年のヴェネチア・ビエンナーレをキュレーションしたオクウィ・エンヴェゾーに次いで、二人目のアフリカ出身の芸術監督となる。 アフリカ大陸で最大規模を誇る現代美術館、ツァイツ・アフリカ現代美術館の主任キュレーターを務めるクオは、現在における芸術トレンドを定義づける展覧会の一つ「When We See Us: A Century of Black Figuration in Painting」などのキュレーションを担当。また、トレイシー・ローズやオトボン・ンカンガ、アブドゥラティ・コテナなどのアーティストの個展も企画してきた。 これらの展覧会を通じて世界的に注目されるようになる前からクオは、自身が2008年にセネガル・ダカールに設立した展示スペース、RAW Material Companyを運営していたことで高い評価をすでに得ていた。当時セネガルのアートシーンにはインディペンデント・スペースがほとんど存在せず、クオは地元の鑑賞者が他の国々でも行われているように、アートについて自由に議論できる場と機会の提供を目的にRAW Material Companyを設立したという。 クオはまた、過去にも芸術祭のキュレーションを担当しており、キュレーションチームの一員として2007年と2012年にドクメンタに参加したほか、アイルランドで開催されるビエンナーレ、EVAインターナショナル、そしてカーネギー・インターナショナルの一環として開催された展覧会も2018年に企画している。 ヴェネチア・ビエンナーレのキュレーションを担当することが決まった際にクオは次のような声明を発表した。 「先人たちの足跡をたどり、芸術監督として展覧会を企画することは、一生に一度あるなないかの名誉であり特権です。私たちが現在生きている世界、そして私たちが作りたいと望んでいる世界にとって意味のある展覧会にしたいと考えています。アーティストたちは私たちに新しい視座を提供し、作品を通じることだけでしか得ることのできない未来図を提供してくれる、先見性のある社会学者だと言えるでしょう」 また、ビエンナーレのプレジデントを務めるピエトランジェロ・ブッタフォーコは声明にてこう語る。 「キュレーター、学者、そして影響力のある人物としてコヨ・クオの視点と、最も洗練されており、若く、そして破壊的なアーティストの知性がビエンナーレで共演することとなります。彼女がビエンナーレの芸術監督を務めることで、過去100年以上にわたって世界に提供してきた未来の拠点という場が存続できるに違いありません」 ビエンナーレのプレジデントに任命された当初、ジャナーリストであるブッタフォーコは組織運営の経験がなく、歴史ある芸術祭に悪影響を及ぼすのではないかと懸念する声が上がった。また、民族主義的思想を掲げる極右政党、イタリアの同胞は国内で分断を引き起こしており、ブッタフォーコは同政党の支持を表明していることから、ビエンナーレが悪用される可能性を危惧する人もいたという。 クィアの視点とグローバルサウスに焦点を当てた2024年のビエンナーレは、ブッタフォーコのリーダーシップの下で初めて開催されたもので、ブッタフォーコが芸術祭に手を加えた形跡は見られなかった。しかし、2024年のビエンナーレはブッタフォーコが指揮を執る前に構想されたものであり、ビエンナーレの真価が問われるのは2026年になるだろう。(翻訳:編集部)
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