賞金ランキング上位者が続々と米ツアー挑戦…世界で際立つ日本人ゴルファーの存在感と国内空洞化の懸念
〈米ツアーでの日本人ゴルファーの躍進が著しい。来季も多くの選手が米ツアーへの挑戦を表明しており、近い将来、世界最高峰の舞台で日本人対決が実現する可能性も高まっている。スポーツライター・金明昱氏がトッププロへの取材をもとに、その最新事情に迫る〉 【画像】思わず二度見…!華麗なショットを披露する原英莉花「美しき微笑み」姿 来季の米ゴルフツアー出場権をかけた12月の最終予選会に、日本の選手たちがこぞって参戦を表明した。2年連続年間女王の山下美夢有(23)、今季7勝でポイントランキングと賞金ランキング1位の竹田麗央(21)、岩井明愛・千怜の双子姉妹(ともに22)の4人がそうだ。国内ツアーのトップランカー4人がこぞって米ツアー行きを決断したわけだ。 また、今季の米下部ツアーのポイントランキングからツアー出場権を得られなかった馬場咲希(19)、今季米ツアー1年目で奮闘したがシード権獲得が厳しい状況の吉田優利(24)も最終予選会からの出場となる。また、今月22~25日にかけて開催される米ツアー2次予選会には原英莉花(25)や神谷そら(21)などが挑戦することが決まっている。 ここに挙げた選手たちが予選会から出場権を得ることができれば、来季の米ツアーは“日本人だらけ”になると言っても過言ではない。現在、米ツアーメンバーには、畑岡奈紗、渋野日向子、笹生優花、古江彩佳、西郷真央、西村優菜、勝みなみ、稲見萌寧がいるが、予選会出場選手が無事に突破すれば15人前後が米国で戦うことになる。 ◆元世界1位が分析「米ツアーに日本人から優勝者が出る」 長らく世界ランキングを席巻してきた韓国女子ゴルフのような勢いが日本にできつつあるわけだ。ちなみに女子ゴルフ最高の大会といわれる米ツアーメジャーの「全米女子オープン」で優勝した韓国の選手は、1998年に初制覇した韓国の“レジェンド”パク・セリ(47)を筆頭に、全部で10人もいる。世界ランキング1位まで上り詰めた選手も多い。日本にはまだこれだけの勢いはないとはいえ、今後、似たような状況が訪れる可能性が高い。 元世界ランキング1位で’09年の米女子ツアー賞金女王でもある申ジエ(36)に、近年の日本選手の米ツアーでの活躍や予選会に参戦を表明している動きについて聞くと、こんな話をしていた。 「今年、日本選手が海外メジャーで2勝(笹生優花の『全米女子オープン』、古江彩佳の『アムンディ・エビアン選手権』)もしましたし、今年米ツアー1年目の西郷真央選手も新人賞レースではトップです。結果が日本選手の実力を証明しています。それに壁にぶち当たりながらも飛び出す挑戦心の強さを持った選手が増えたので、すごくたくましい。これから米ツアーで日本の選手が優勝するシーンを見る日がたくさん来るだろうし、これからどんどん勝つと思います」 女子ゴルフ最高峰の舞台に出ていくというチャレンジ精神や意欲は、向上心のあるプロゴルファーならごく自然なことだとは思うが、なぜ日本から米ツアー挑戦者が増えるのか。その理由について米ツアー2年目の西村優菜(24)が教えてくれた。 「海外メジャーで日本選手が結果を残す姿を見て、『自分も行きたい』という気持ちが増すと思います。個人的に思うのは、日本ツアー全体のレベルが上がってきていること。アメリカに来ても(日本の選手は)戦えるレベルまで上がってきてるんじゃないかなと思っています。もちろん飛距離やアプローチの技術、パターに関してはトップを走る選手にはかなわない部分もありますが、特にショットの精度は日本の選手のほうがレベルは高いと感じます」 また西村は「“戦えるポイント”がある選手が増えているから、アメリカで腕を試したくなると思う」とも語った。一方で、日本ツアーの環境は恵まれていることから「日本だとギャラリーも多く、クラブのリペアもできる。ギャップは感じると思うし、(アメリカは)決してキラキラした場所ではない」ことも強調していた。 ◆進む「空洞化」への懸念 それでも近年の若手は米ツアー志向が強い。そこで危惧されるのが「日本女子ゴルフ界の空洞化」だ。人気・実力のある選手たちがいなくなってしまうことで、ゴルフファンが離れてしまう可能性はないのだろうか。 前述した山下、竹田、岩井姉妹の4人が米ツアーに出ていけば、海外挑戦の考えはないという’98年生まれの“黄金世代”の小祝さくら(26)が国内ツアーを牽引すると予想される。しかし、その下にも安田祐香(23)、川﨑春花(21)、尾関彩美悠(21)といった人気と実力を兼ね備える若手が台頭しており、国内ツアーの人気がすぐになくなるとは考えにくい。それでも、活発な新陳代謝が図られているのかと言われれば決してそうではない部分もある。 日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は、’19年からプロテストに合格しなければ、ツアー出場につながる予選会(QT)に出場できない制度を作った。その前までは、プロテストに合格していなくても予選会へのエントリーは可能で、多くの日本選手だけでなく、韓国人選手もこの制度で日本ツアーに参戦してきた歴史がある。 それをなくしたことで、現行のメンバーを守ったと見る向きもあり、実際に日本ツアーに進出する韓国人選手は圧倒的に減った。しかし、ゴルフファンにほとんど知られていない、実力のある多くの若手選手たちが予選会に出られず、くすぶり続けているのも事実だろう。実際、ツアー選手を目指しながらも真剣勝負の場がない選手のために『マイナビネクストヒロインツアー』が‘19年から発足している。 国内女子ツアーで結果を残した選手たちは、どんどん米ツアー挑戦の扉を開けていくに違いない。米ツアーで日本選手が優勝を争う姿を多くのファンは待ち望んでいるし、特にジュニア世代は、世界で活躍する選手にさらに刺激を受けてプロの世界に飛び込んでくるだろう。 そういう意味では、日本の女子ゴルフ界はいい流れにあるように見えるが、それでも数年後、数十年後も、国内女子ツアー人気は安泰と言えるだろうか。日本ゴルフ界のレベルが上がってきた今だからこそ、このまま成長曲線を描き続けられるような長期的な目線が必要なのかもしれない。 取材・文:金明昱(キム・ミョンウ)
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