築100年の京都の古民家リノベで多数受賞!斬新なアイデアで話題を呼んだ注目の若手建築家・萬代基介インタビュー
斬新なアイデア!既存の古い母屋に、5つの小さな新築をくっつける?
萬代さんが提案したのは、既存の母屋を残し、そこにくっつけるように5つの下屋を増築していくプラン。 現代の生活に合う快適なキッチンやバス空間、趣味でお茶をされるお母さまのための和室、収納スペースなど必要な要素を、下屋として母屋に付帯させるというアイデアです。 逆に、中央の母屋はがらんどう。今の、また、これからのライフスタイルにふさわしいフレキシブルな大空間が家の中心に広がっています。 下屋を5つに分け、母屋から複雑に枝分かれするように計画したのは、庭や外の環境とのつながり方を丁寧に検証した結果。たくさんの樹木も一つひとつリサーチし、どの空間をどこに伸ばすか、開口の取り方や屋根の勾配など、スタディを繰り返して生まれた形なのです。 金木犀に囲まれた居間、日が降り注ぐ台所、モミジの横に配された茶室、星空の見える書斎、柔らかな光が入る浴室――。外部と母屋の間で、建築がうまく“ふるまう”ように緻密な調整がなされています。
デザイン的にも構造的にも、新旧の要素が見事に融合
下屋は、この家のコンセプトを成し遂げるために構造の面からも重要な役割を果たしています。古い母屋を、周りの新築部分(下屋)が補強。そうすることで、中央の母屋は元来では必要だった壁を取り去り、数本の柱だけが立つオープンな空間にすることが可能になったといいます。 全体が古くもあり、新しくもあり、不思議な感覚になります。それは、元の建物の材料、例えば建具や柱、床板などを増築部分に転用しているから。 天井や柱は既存のままでありながら、開放的で軽やかに生まれ変わった母屋。要所に古い資材をちりばめて仕上げた新築の下屋。 そして代々大切に手入れをされてきた庭。 萬代さんの計算によって、常に新しいものと古いものが同時に目に入る、絶妙な新旧の一体感とレイヤーが生み出されました。
コラム/どうやってこんな形に?「答え」に辿り着いた設計プロセスとは
萬代さんの設計案の深め方、スタディの一部をご紹介します。 段階① さまざまな可能性から全体の構想を探る 当初はすべて新築という選択肢も残したまま、あらゆる可能性を探りました。古い生け垣や、大きな庭、増改築を繰り返した下屋の痕跡など、多様な要素を手掛かりに、何十通りもの案を検証したといいます。 段階② 既存の母屋と新築の下屋の形を検討する 母屋の改修+下屋の増築という方向性が決まった後は、それがどのように取り付くとよいかを幾重にもスタディ。場の使われ方や生活シーンを具体的に思い描きながら、窓や壁の向き、屋根の傾斜を整えていきました。 段階③ 屋根の角度や古材の再利用など細部を詰める 母屋の詳細な寸法や、庭の木の正確な位置といった細部まで調査し、それに合わせて新築の形を確定。また古い床板や建具など、既存建築の素材を新築に転用できるか同時に検討しました。 こうして完成した住まいは、今まで見たことのある古民家の改修とは明らかに一線を画しています。 オリジナルの建物、家族の記憶、庭や周辺地域との関係性。あらゆるものを継ぎ、つながりながら新しい姿を獲得した住まい。どこにあっても成り立つような建物とは違い、そこから「生まれてくる姿」を追い求めた建物は、他にはない魅力と奥深さを備えています。
いかがでしたか?萬代さんの才覚を指し示す実例と共に、設計フィロソフィーを伺うインタビューをお届けしました。