『虎に翼』名村辰のらしさが詰まった名台詞 男・女ではなく“1人”のために考えるべきこと
『虎に翼』(NHK総合)第108話では、裁判所で開かれた中学生向けの勉強会で、「女性は働かなくてもいい」という意見が出た。第107話終了後、SNS上では男子生徒・益岡良助(岩田奏)の言葉に「分かる!」と言った小橋(名村辰)の真意が何なのかが話題になっていた。第108話ではその言葉の続きが明かされる。小橋は益岡の複雑な心情に寄り添い、諭す。小橋が語ったのは、小橋自身が経験してきたことだ。 【写真】桂場(松山ケンイチ)と対峙する寅子(伊藤沙莉) 「できる男と比べられるのも嫌なのに、更にできる女とも比べられる! 頑張らなくてもいいのに頑張る女たちに無性に腹が立つ!」 「平等ってのはさ、俺たちみたいなやつにとって、確かに、損なところもたくさんある」 「でも、そのいらだちを向ける時、お前、弱そうな相手を選んでないか?」 「この先、どんな仕事をして、どんな人生を送ろうと、弱そうな相手に怒りを向けるのは何にも得がない。お前自身が平等な社会を拒む邪魔者になる。嫌だろ?」 名村の演技は、減らず口な小橋らしさをそのままに、小橋自身が自分自身が抱いていた感情と向き合ってきたその重みを感じさせる。益岡の心情を決して否定せず、寅子が「小橋さん?」と戸惑うぐらいに感情をのせる台詞の言い回しから、小橋が益岡にかつての自分を重ねたのだと伝わってくる。 かつて小橋は、明律大学時代には女子部をからかったり否定的な態度をとったりしており、裁判官時代も寅子(伊藤沙莉)との言い争いが絶えなかった。しかし第73話で、新潟への移動を命じられた寅子が、桂場(松山ケンイチ)や久藤(沢村一樹)、多岐川(滝藤賢一)からあたたかく見送られるのを見て、小橋は思わず「うらやましい……」と口にする。小橋の寅子に対する複雑な心情を理解するのに十分すぎる一言だった。 益岡に寄り添いながらも語る小橋の姿には説得力があった。小橋の言葉は、益岡の心に響いたことだろう。
寅子(伊藤沙莉)が桂場(松山ケンイチ)に“育休制度”を提案する
一方で、秋山(渡邉美穂)の言葉もまた、胸に刺さる。勉強会の後、秋山は寅子の前で「平等なわけないです」「男と女のつらさをひとくくりにされたくない」と口にした。秋山は子供を授かっていた。母になることに、うれしい気持ちはあるが、自分で切り開いた道を自分で閉ざさなければいけない現状に、秋山は苦しんでいたのだ。寅子もまた、秋山にかつての自分を重ね、寄り添う。 秋山、そして後輩たちを守るために寅子は行動を起こす。「育児期間の勤務時間短縮」「育児のための長期休暇取得」という寅子の提案に、桂場(松山ケンイチ)が「時期尚早」といって立ちはだかるが、寅子はそう簡単には引かない。劇中では、桂場もまた過去を振り返る。第38話では、寅子が今の秋山同様、子供を授かったことをきっかけに“地獄”を見て、穂高(小林薫)と決別する。あの場面には続きがあり、桂場が穂高に苦言を呈していたことが明かされた。 寅子は女性にも開かれた法曹界にするため、仲間たちに協力を仰ぐ。第108話は、そんな寅子の前に、久藤(沢村一樹)と桂場が現れて幕引きとなった。ここでは女性法曹の話題が主軸になっているが、物語前半で描かれた小橋と秋山からも分かるとおり、本作は「女性は」「男性は」と一括りにすることはできないことも語る。小橋も寅子も桂場も、かつての自分と目の前にいる後輩たちを重ね、これからの世代のために、「男」とか「女」とかではなく1人1人のために、自分たちが通ってきた道の“舗装”を行っている。明日の桂場の発言が気になるところだ。
片山香帆