ジャック・ウェルチ:「20世紀最高の経営者」の未だ定まらぬ蓋棺録
ジャック・ウェルチが復活させたGE(写真)の衰退と分割……本当に「最高の経営者」だったのか Jonathan Weiss@shutterstock.com
古今東西、ステークホルダー(株主や従業員、取引先など利害関係者)に莫大な富をもたらした名経営者は「神」と崇められ、周辺から生まれる数々の「神話」が公私に亘る彼らの疵を覆い隠してきた。ヘンリー・フォード(1863~1947年)は熱烈な反ユダヤ主義者であったし、松下幸之助(1894~1989年)の宗教紛いの企業統治は評論家の大宅壮一から「ナショナル教」と揶揄されたが、歴史上の人物となることによって、こうした過去の悪評は浄化されていった。 ジャック・ウェルチ(1935~2020年)を歴史上の人物と呼ぶには他界してまだ日が浅いかもしれない。1892年創業、発明王トマス・エジソン所縁の米ゼネラル・エレクトリック(GE)を復活・飛躍させた“中興の祖”であり、1999年に米経済誌フォーチュンが「20世紀最高の経営者」との栄誉を与えた。しかし、米国企業の代名詞でもあったそのGEはこの5年間で一気に凋落、会社は解体に追い込まれた。収益至上主義で黄金期を築いたウェルチの経営は“強欲資本主義”の典型とされ、今では高株価の代償として数十万人の雇用を蒸発させ「アメリカ企業社会の精神を破壊した張本人」といった汚名を着せられている(デービッド・ジェレス著「 The Man Who Broke Capitalism 〈資本主義を壊した男〉」2022年、邦訳未刊)。 経営者としてのウェルチの軌跡は栄光に満ちていた。両親ともにアイルランド移民の子で、その一人っ子として米東部マサチューセッツ州ピーポディで生まれた。父はボストン&メイン鉄道の車掌で決して裕福な家庭ではなかったが、ウェルチの青春期は1950年代、戦後アメリカの良き時代で雇用は安定。労働者階級の子弟でも大学進学を阻まれる経済的障害はなかった。
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杜耕次