「弱者男性」は「差別」されているのか? 社会から“排除”されてきた「低学歴中年男性」の支援に必要な視点
「論破」ではなく「合意」を目指すことが大切
――今後、弱者男性の支援策について社会的に議論するために必要なことは何でしょうか。 伊藤教授:ネット上の弱者男性論を目にしていて気になるのは、ミソジニー(女性嫌悪)やアンチ・フェミニズムの傾向が強いことです。 弱者男性が抱えている問題の多くは、日本社会に根深い、性別役割分業や性別に関する固定概念から生じています。フェミニズムはそれらを批判する運動なのだから、弱者男性の「敵」ではなく、共闘すべき「味方」のはずです。 ただし、ネット上では美少女イラストなどの「表象」を批判するフェミニストも目立ち、多くは「オタク」でもある弱者男性が反感を抱くのは仕方がない面もあります。表象をめぐる「差別」の問題で炎上してしまって、社会構造をめぐる「排除」の問題に議論が至っていない、というのが現状でしょう。 また、ネット上の議論は「データ」や「エビデンス」を提示しながら相手の主張を「論破」するディベートのようなものに終始することが多く、互いに「合意」を成立させるための建設的な議論が行われることはまれです。 データやグラフを扱うことは一見すると数学的で難しそうですが、実際にはどこかに転がっている情報を加工しているだけのことが多く、手軽な作業です。自分にとって都合のいいデータだけを集め続けた結果、陰謀論のような思考にハマる人も多くいます。 重要なのは、そのデータが実際には何を意味しているのかを判断して、「コンテクスト(文脈)」を見通すことです。また、相手を論破することを目指すのではなく、相手側の問題意識や考え方などにも配慮しながら自分の主張を伝えることが、合意を目指すためには大切です。 社会全体として見れば、70年代型の「差別」問題をきちんと解決したうえで、90年代型の「排除」問題に取り組んでいくべきでしょう。日本では「差別」問題への対応が遅れ、そうこうしているうちに「排除」問題が顕在化してしまったので、二つが混同され、そこに対立が生じていますが、それぞれの領域の「弱者」にどんな支援策が必要なのかを、トータルで考えていくことが必要です。
弁護士JP編集部