ひとり歩きした二文字…黒田監督が放ったメッセージの意味を深掘り 「正義」はコンセプトの象徴【コラム】
ロングスロー戦術を変更…U-23日本代表コンビへは機内で時差調整を指示
高校サッカー界の強豪、青森山田から異例の転身を遂げ、長くJ2リーグを戦っていた町田を優勝と初のJ1昇格に導いた昨シーズンから、黒田監督は失点を拒絶するメンタリティーを選手たちに植えつけてきた。さらに、黒星を喫した試合後には「連敗だけは絶対に許されない」という不文律もつくり上げてきた。 プロの世界へ挑む上で掲げた戦い方や方針は、究極の負けず嫌いを自負し、いっさいの妥協も許さない自身の性格が反映されている。さらに黒田監督は、勝利のためなら自身が嫌われ者になるのも厭わない、という姿勢も貫いてきた。ロングスローやロングボールが批判された昨シーズンの途中には、次のように反論している。 「ロングスローに関しては、ルール上でダメというわけでもない以上は、われわれの武器として使っていく。相手にクレームをつけられる理由もないので、そこはぶれずにやっていく。いろいろと言う方はいますけど、それに対していちいち答える必要はないと思っている。よく勝利至上主義と言われていますけど、勝利至上主義と勝利にこだわる姿勢、細部にこだわっていく姿勢は全然違うし、われわれは相手を常にリスペクトしながら戦っている。そこの部分での言葉使いというか、言葉選びのところでちょっと誤解されているようなところがあるのかもしれないが、これからも町田のサッカーでしっかりと勝利を追求していきたい」 実はマリノス戦に限れば、ロングスローを使ったのは後半アディショナルタイムの一度だけだった。 離脱した身長186cmのデュークだけでなく、194cmの高さを誇るエースストライカーのFWオ・セフンも、6月の国際Aマッチデー期間に招集された韓国代表での活動中にコンディションを崩し、マリノス戦の先発はおろかベンチ入りも見送られていた。つまり町田は長身のターゲットマン2人を欠いてマリノス戦を迎えた。 マリノス陣内でスローイングの機会をなかなか得られなかった試合展開もあるが、何よりもロングスローのターゲットがいなかった状況が戦い方を変えさせた。左からパリ五輪代表候補のMF平河悠が個人技で次々と仕掛け、状況に応じて192cmの右サイドバック、望月ヘンリー海輝が相手ゴール前へシフトして高さを補った。 平河はFW藤尾翔太とともに、U-23日本代表のアメリカ遠征から13日の午後に帰国したばかりだった。黒田監督は現地時間11日のU-23アメリカ代表との国際親善試合後に、マネージャーのラインを通じて平河と藤尾に、日本と14時間ある時差を飛行時間が13時間を超える機内で調整してほしいとメッセージを送っていた。 「飛行機のなかでの過ごし方で、時差をしっかりと攻略できるように準備をしてきてほしい」 マリノス戦で2人はそろって先発し、平河は後半アディショナルタイムまでプレー。後半12分に逆転ゴールを決めた藤尾は、後半34分に万雷の拍手を浴びながらベンチへ下がっている。右サイドからのクロスを左足ボレーで叩き込んだ藤尾の一撃のスイッチを入れたのは、敵陣中央で鋭い出足からこぼれ球を拾った平河だった。 勝利へこだわりには、ターゲットマンを欠いた状況で実践する戦い方の構築を含めて、キックオフを迎えるまでに積み重ねる周到な準備も含まれる。その上でチームのコンセプトを貫き通し、今シーズン12勝目を初めての逆転劇でつかみ取った試合後の取材エリアでは、選手たちが同じニュアンスの言葉を発している。 天皇杯後にSNS上で飛び交ったバッシングへの思い聞くと、決まって「僕たちにはなかなか言えない」や、あるいは「僕たちにはどうすることもできない」と返ってきた。批判を招く言葉の数々を介して、ある意味で黒田監督がチームをかばった部分もあったのでは――こう問われたMF下田北斗は次のように答えている。 「みんなでそういった話をして、選手たちも感じるところはたくさんあったと思うけど決してネガティブになりすぎずに、負けは負けだとしっかりと受け止めて、その上で勝って自分たちがやっているサッカーを証明したいと意識して戦いました。いろいろとあったけど、僕たちにできるのは正々堂々と、謙虚に戦うしかない、と」