ひとり歩きした二文字…黒田監督が放ったメッセージの意味を深掘り 「正義」はコンセプトの象徴【コラム】
黒田監督の発言の意図は―チームを鼓舞する姿勢
試合は前半14分に一瞬の隙を突かれ、マリノスのFW宮市亮に先制ゴールを決められた。しかし、望月が敵陣の右タッチライン際で獲得した直接FKから、下田が放ったクロスを平河がすらしたこぼれ球をキャプテンのDF昌子源が押し込んで同点とした。前述した通りに後半12分には勝ち越しゴールが生まれた。 さらに4分後の同16分には、下田が直接FKを叩き込んだダメ押しした。大学生に敗れたショックを引きずらず、戦線離脱を余儀なくされた4人の思いを背負って戦う。キックオフ前に高められた士気が、先に失点しても全員が下を向かず、時間の経過とともにマリノスをのみ込んだ怒涛の試合展開の源泉になった。 「気持ちや魂に加えて、めぐってきたチャンスをしっかり仕留める技術、そして試合の最後まで走りきる体力。心技体のすべてで相手を上回らなければ勝てないなかで、町田らしいサッカーをあらためて確立できたと思う。連敗しない状況が決して偶然ではなく、必然として選手たちもとらえている。どのような試合をすれば勝てて、どのような試合をすれば負ける、というところもしっかり整理をされている。それらがすごく町田ゼルビアのいま現在の立ち位置のところ、または首位に立っているところにすごく大きな影響を与えていると思う」 会心と表現してもいい勝利を、黒田監督もこう振り返った。言葉の端々からは「町田は決して悪ではない」と明言した指揮官があえて「ヒール」に徹し、チームを間接的に鼓舞する意図が垣間見えてくるといっていい。 筑波大学との天皇杯2回戦に続く連敗を回避しただけではない。マリノス戦の前節、今月1日のアルビレックス新潟との第17節で1-3と完敗した町田は、今シーズン4敗目を喫していた。そして、リーグ戦で黒星を喫した次節は、これで今シーズンは4戦全勝。昨シーズンを含めれば8勝3分けと無敗が継続されている。 シーズンの折り返しとなる22日の次節は、ホームの町田GIONスタジアムにアビスパ福岡を迎える。現時点で2位の鹿島アントラーズとの勝ち点差は2ポイント。町田が勝てば初めて臨むJ1戦線での首位ターンが決まる。 [著者プロフィール] 藤江直人(ふじえ・なおと)/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。
(藤江直人 / Fujie Naoto)