“男性”の「自殺率」は女性の2倍 原因は「生物学的な傾向」か、「社会的な要因」か?
男を孤独にさせる「生物学的」な傾向
『男はなぜ孤独死するのか』では、男性が女性よりも孤独になりやすい根本的な原因として「男性は女性に比べて物質主義的であり、人間や対人関係に対する興味が薄い」という、心理学的な傾向を挙げている。 また、ジョイナーは、上記の傾向は環境や教育によって後天的に身につくだけではなく、乳幼児の時点から生まれつき存在する生物学的なものでもあると論じている。そして、この心理学・生物学的な傾向が、孤独を引き起こす以下の3つの特徴を男性に備えさせるという。 (1)対人スキルの欠如:若いころから人に対して関心を持たず、家庭内では甘やかされ、学校でも女性に比べて複雑な人間関係を経験しなかったりすることから、関係を維持するためのスキルを身につけられないまま大人になる男性が多い。 (2)プライドの高さ:男性は女性と比べて「自立」に価値を置いており、「依存」を嫌がる。また、人の手を借りたり、他人に譲歩することを嫌がるため、コミュニティから孤立しやすい。 (3)収入や地位へのこだわり:男性は他人のことよりも自分が収入や地位を得ることを優先して、仕事やキャリアのために家族や友人との関係を犠牲にしやすい。
日本にも当てはまるか?
ジョイナーはアメリカ人であり、『男はなぜ孤独死するのか』で分析の対象になっているのもアメリカ人男性が主だ。そのため、邦訳出版後、「本書の議論は日本の男性には当てはまらない」とする声も上がっている。 しかし、「自殺の対人関係理論」は自殺研究においては世界的なスタンダードになっている理論だ。そのため、同理論をベースにした『男はなぜ孤独死するのか』の分析は日本にも概ね当てはまる、と末木教授は語る。 「『どんな方法で自殺するか』などは国によってかなり大きく異なりますが、自殺が起こるメカニズムの方はより普遍的な傾向を持ちます。また、本書の内容は、研究やエビデンスに基づいています。自殺の対人関係理論そのものは、様々な国で理論の検証が行われ、一定の妥当性を有していることが示されています。 性別は『男性』と『女性』の二元論に分けられないことには注意が必要です。しかし、実際問題として、ほとんどの国で女性よりも男性のほうが2~3倍自殺で亡くなりやすいことも事実です。本書で論じられているような、生物学的な要因を無視することもできないでしょう」(末木教授) 前述した通り、ジョイナーは男性が対人スキルを身につけないまま成長する原因を「甘やかされる」ことと論じている。だが、自殺の原因について「本人が甘やかされていたからだ」とするのは、実際に自殺した男性に対して冷淡・過酷であるとして、この表現を批判する声もある。 8月には、『男はなぜ孤独死するのか』の感想をXに投稿した女性が、「甘やかされた」という表現が原因で炎上する騒動も起こった。 原文では「甘やかされる」は「spoiled」と表記されている。「spoil」という英単語には「甘やかす」の他にも「駄目にする」「能力を失わせる」等の意味が含まれており、日本語での「甘やかす」とは意味が同一ではない。 「とはいえ、他により良い訳語があるかと言われると難しいかもしれません。異なる言語で書かれたものですから、日本語だけで理解するのではなく、spoiledという表現をなぜジョイナーが使用しているのかということについて、著者の経験などのコンテクストを知り、理解をしようとすることが重要だと思います。」(末木教授)