“男性”の「自殺率」は女性の2倍 原因は「生物学的な傾向」か、「社会的な要因」か?
「社会的な要因」は存在する?
男性が自殺しやすい原因を男性たち本人の「傾向」や「特徴」に見いだすことは、「男が自殺するのは男たち自身のせいだから、社会的な配慮や対策は必要ない」とする、自己責任論を招く危険があるかもしれない。 また、自殺の原因として、長時間労働などの社会的な要因が注目されることも多い。過労死・過労自殺に関する厚労省の統計は、長時間労働の割合は男性が高いことを示している。 末木教授は「研究者のほぼ全員が、生物学的な要因や心理学的な要因、そして社会的な要因のいずれもが自殺と関係している、という見解に同意するでしょう」と語る。 「これは個人的な推測ですが、ジョイナーの場合、経済的に成功した父親(アメリカにおける白人男性)が自殺によって死亡したことも、研究に少なからず影響を与えていると思います。 つまり、社会的には恵まれていた男性でも自殺することがあるのだから、自殺の要因は他にも存在するはずだ、という着眼点が『自殺の対人関係理論』の内容や『男はなぜ孤独死するのか』の内容に影響を与えたと考えられます。 逆に、社会的な要因を強調する研究者もいます。しかし、そのような研究者でも、個人的な要因や遺伝的な要因などを完全に無視することはできないはずです」(末木教授)
統計だけではわからない「自殺の原因」
社会的な要因のみに注目しても、自殺原因の特定は難しい、と末木教授は指摘する。 「そもそも、自殺予防が国家的なレベルで検討されるようになったのは1980年代からです。また、自殺に関する計量的な研究が本格化したのも主としてこの頃からであり、まだまだ歴史の浅い学問です。 最近の統計だけを見れば『(年収といった現代の我々がイメージする)経済的な豊さと自殺リスクの低さには関連がある』といえます。しかし、1890年代の日本を詳しく調べると、貧しい農村部よりも豊かな都市部のほうが自殺率が高かったようです。 また、国際比較をしようとしても、自殺統計の取り方や死因の分類のプロセスは各国によって異なります。『自殺が少ない』とされている国も、他の国では『自殺』とされる死に方を他の死因に分類している可能性があります。 それどころか、日本国内でも、都道府県によって死因の分類プロセスが異なっている可能性もあります。 現在流通している理論や仮説はそれなりに頼りになるものではありますが、一方で、主としてこの数十年の限られた統計に基づくものに依拠していることに留意する必要もあります」(末木教授)