ガセネタだった金正恩氏「重体説」 錯綜した情報はどう流れたか?
「裏取り」で注目すべき2つの反応
仮に米情報機関の独自情報だったとした場合、いわゆる「裏取り」としては2つの情報に注目する必要があります。 1つは韓国当局の反応です。仮に米情報機関の独自情報だったとしても、米情報機関とすれば、これだけの機密情報であればおそらく、韓国情報当局に関連の情報を照会する可能性が高いでしょう。韓国情報機関が何かしらの特異情報を察知していたら、そうした情報とつき合わせることで、確証を得られる可能性があるからです。そして、その場合、米国側の本気の情報照会を受けた韓国側は、この情報の扱いにかなり慎重になるはずです。 ところが、韓国当局は今回、早い段階から否定の見解を出していました。これは、韓国当局が独自の情報分析で否定的な結論を得ていた可能性もありますが、少なくとも米国から確度の高い情報を得ていなかった可能性が高いことを意味します。 さらに、それより重要な注目点は、米国の他の主要メディアの報道でした。これほど重大な情報を米当局がCNNにリークしたならば、米国のライバル各社が黙って指をくわえて見ているわけがありません。ワシントンポスト紙やニューヨークタイムズ紙など、米情報当局に強い大手メディアの敏腕記者たちが猛烈な取材をかけ、必ず続報を出します。 しかし、今回、そうした他社の報道がありませんでした。また、言い出しっぺのCNNも、翌22日の続報では具体的な補強情報が取れず、かなりトーンダウンさせていました。こうした状況をみれば、最初のCNNの報道は、さほど確証が高い情報ではなかったと判断できます。 さらに翌日の23日には、トランプ大統領がCNNの報道について「不正確だ」と明言しました。トランプ大統領にとってCNNは天敵なようなものではありますが、そこまで言うからには不正確であることを情報当局から知らされていた可能性が高いと言えます。つまりこれは、もともと米情報機関が間違えていたという話ではなく、米当局者とCNNの間の情報伝達の問題あるいはCNNの先走りということになりそうです。 こうして火付け役だったCNN報道の信憑性が「甘い」となれば、金正恩重体説そのものが信憑性の低い情報になります。 その後も、中国から医師団が北朝鮮に派遣されたとか、「金正恩」専用列車や専用船舶の動向など、各メディアからさまざまな報道が出ましたが、重体説を裏付ける核心的な情報はありませんでした。正体不明の伝聞情報との形式で、植物状態説や死亡説なども流れましたが、その多くは作り話のレベルでした。