【毎日書評】なぜ海鮮丼は「日本全国どこで食べてもほぼ同じ」になってしまったのか?
海鮮丼、どこで食べても同じになった?
流通・冷蔵技術の進歩によって、日本で食べられる魚にさほどの地域差がなくなっているのはご存知のとおり。それは喜ばしいことですが、少なからず寂しい面もあると著者は指摘しています。 その典型が全国に点在する漁港周辺の魚食で、近年はとくに「海鮮丼、日本全国どこで食べても、みな同じ」という傾向を実感するというのです。 旅先(取材先)である漁港周辺の和食店で食べる海鮮丼は、マグロ、ホタテ、イクラ、エビ、サーモン、イカなどのネタが多い。バリエーションはいくつかあるにせよ、メニューを見ると、これら色とりどりの魚介の写真が「お薦め」といわんばかりに目に飛び込んでくる。(94ページより) いわれてみればたしかに、和食店のメニューで見る海鮮丼の写真はどれも色鮮やかで“みんな同じ”。あたかも、客側が求めるイメージをそのまま提示したかのようです。でも、なぜそんなことになってしまうのでしょうか? 前出のネタをみると、マグロやホタテをはじめ、国産・輸入、天然・養殖はそれぞれあるが、中心は冷凍ものだ。サーモンは近年、国内各地の「ご当地サーモン」を使う場合もありそうだが、基本的にはノルウェーやチリからの輸入ものが大半を占めている。つまり、人気のネタはどの地域でも入手が可能で、いつでも定番メニューとして、写真入りで客にアピールできるというわけだ。(95ページより) また著者は、このことに関連して興味深い話を取り上げています。豊洲市場で鮮魚を扱う競り人が、「人気の海鮮丼のネタは北海道や三陸産を中心に、サーモンなど輸入魚も多い。5~6種類のネタのうち、前浜(近隣漁港)の魚はせいぜい1、2種類ではないか」と話していたというのです。 色合いの問題のみならず、魚種や値段の固定化も難しいので、客が求める海鮮丼をつくるのは決して簡単ではありません。そこで、前もって調達でき、色合い鮮やかな輸入ものの冷凍魚や養殖魚などを使用して固定のメニューに掲げ、PRすることになるわけです。 さらに、たとえインパクトのあるメニューを載せても、それと同じ丼を出さなければ「これ、メニューの写真と違うな」と、客をがっかりさせてしまうばかりか、即座にSNSで拡散されては店側も困ってしまう。したがって、どこでもありがちな丼をメニューの中心にすることで「客も店もハッピー」というわけだ。(97~98ページより) もちろん日本で食べられるすべての海鮮丼がそうだというわけではなく、自慢の地魚を使ったおいしい丼が各地で提供されているのも事実。とはいえ、そう簡単に片づけられることはできない問題でもあるようです。(94ページより)