【毎日書評】なぜ海鮮丼は「日本全国どこで食べてもほぼ同じ」になってしまったのか?
『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(川本大吾 著、文春新書)の著者は、大学卒業後に入社した時事通信社で水産部に配属されたのち、水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当してきたという人物。 「水産週報」編集長、水産庁の漁業多角化検討会委員を歴任し、2014年に水産部長に就任したのだそうです。いわば“さかなのプロフェッショナル”だといえるでしょう。 ところで現在、日本の漁業は大きな転換期を迎えています。魚の水揚げが低調であるばかりか、「魚より肉」といった食生活の変化などによる「魚離れ」で消費も鈍化するばかり。昭和の時代には「儲かる職業」といわれていた漁師も減り続けているようです。 さらには2023年8月下旬には東京電力福島第一原発の処理水が海洋放出され、漁業業者にとっての懸念材料だった「風評」が日本に大きな打撃を与えることに。中国が日本産水産物の全面禁輸を強行したため、多くの魚介が行き場を失ったわけです。 日本産水産物の輸出額は中国・台湾を合わせて年間約1600億円で、輸出額全体の4割以上に及んでいたのだといいます。それだけでも、いかに大きなダメージであったかがわかるのではないでしょうか? 国内に目を向けてみても、食生活の多様化や個食化のほか、スーパーの台頭をはじめとする流通事情の変化が大きな影響を与えていることがわかります。 なぜならば、冷凍技術が発達し、遠方からも安定して鮮度の良い魚が確保できるようになったことで、スーパーの魚コーナーや回転寿司では、色とりどりの「輸入魚」が幅を利かせるようになったからだ。「輸入・冷凍魚」に押され、現状の流通では、「国産天然魚」、特に大衆魚が消費されにくくなっている。(「はじめに」より) こうしたところからもわかるように、日本の漁業・水産業は深刻な状況にあるわけです。しかし、それでも本来持っているポテンシャルは高く、「捨てたもんじゃない」と著者は見ているのだそう。そこで本書では、「うまい魚」をさまざまな観点から考察しているわけです。 きょうは第6章「美味しい魚をまずくする『流通』の問題」のなかから、興味深いトピックスを抜き出してみたいと思います。