【トランプは中国との貿易戦争に勝てるのか?】厳しい中国の経済状況も、危険はらむトランプの4つの特性
関税措置へ考慮すべきこと
シングルトンが所属する民主主義防衛財団は、共和党系でネオコン的な傾向のある米国シンクタンクで、シングルトンは中国担当のシニア・フェローとして、トランプが適切な対応を取れば、第2期政権の最重要課題の1つである先端技術や貿易戦争で中国に勝利し、その優位を恒久的なものにする好機であると論じている。 その背景として、中国が、経済停滞や債務増大、失業増加や高齢化により既に衰退へ向かい、トランプの強圧的で予測困難なやり方に脆弱で、米国が高額の関税を課すのに対して有効な対抗措置が取れないためであるとしている。もっとも、米国の優位を恒久的なものとするためには、より焦点を絞った戦略と規律が必要で、同盟国の信頼を損ねるようなことのない「アメリカ・ファースト」に刷新する必要があるとしている。
同盟国重視の点はもっともであり正論だが、トランプの「アメリカ・ファースト」の基準が経済的損得勘定に偏り、「力による平和」の実現というが、その「力」が関税賦課のことであれば同盟国の立場としてはいささか心もとない。また、トランプの集中力のなさや戦略性のなさが容易に改善されるとは思えず、シングルトンの中国経済の状況についての見方も、また、中国が軍事的カードを切る可能性についてもやや楽観的で、トランプが中国に対して恒久的な優位に立つ好機となるとの主張に必ずしも強い説得力はない。 トランプが関税を武器とする一連の公約をどのようにどこまで実行するかは良く判らないが、世界経済や貿易に影響を与える可能性は極めて高い。 この論説では、関税措置の消費者への影響について、「世論調査によれば、ほとんどの米国人はトランプの関税による威嚇を支持している」としているが、この点もやや楽観的過ぎる印象がある。トランプの世界一律10~20%の関税賦課という公約についても、その価格転嫁や相手国側の報復関税による米国輸出への影響やこれに対する世論の反響も考慮する必要があろう。世論も「威嚇」は支持しても物価上昇まで支持しているとは思えない。