お値段1500万円!? カワサキWのエンジンにガーダーフォーク&ハードテイル…チェコの超高級バイク「プラガZS800」とは?
前述のようにデザインチームは1920年代のプラガ製バイクにインスピレーションを受けており、それゆえにドラムブレーキやガーダー式フォークを採用している。ただし、ありがたいことに、ドラムブレーキはワイヤー引きではなく油圧式で、ガーダー式フォークにはチタン製スプリングを備えた最新のオーリンズ製フルアジャスタブルサスペンションユニットが備わっている。 このほか、バネ下重量を軽減する複雑なスポークデザインの18インチカーボンホイールや、一般的な125ccバイクのフレームとほぼ同じ重量の軽量クロモリフレームなど、しっかりと現代的なアレンジがなされている部分は多い。しかしながら、リヤは純粋なハードテール=サスペンションなしのリジッド構造だ。ダンロップ製タイヤに充填された空気も衝撃緩衝の役割を大いに担うことになる。 実際に走っていると、ガーダー式フォークはほとんどノーズダイブがなく、この点ではBMWのテレレバーに似ているが、美しく形成されたアームが上下に動いて路面の凹凸をいなしていく様子は魅惑的である。リヤサスペンションがないため、ライダーの快適性は明らかに大幅に損なわれているが、ZS800は私が今までに乗った多くのハードテールモデルほど過酷なバイクではない。 シートの下には調整可能なオーリンズ製ダンパーがあり、路面の凹凸からライダーに伝わる衝撃を緩和。前方に向かって細く絞られたシートは、着座位置を前に移動させるとクッション性が低下するが、後方に座るとショックを介したテコの作用が大きくなり、比較的ソフトな乗り心地となる。ZS800では、シートの下に粗末なベッドスプリングが付いているハードテールモデルのようにリバウンドでシートから押し出されることはない。 だが当然、シート下のユニットは一般的なリヤサスペンションのようには機能しない。リヤタイヤのグリップとトラクションに貢献することはなく、少し走るのに夢中になるとリヤタイヤが跳ねて、私の銀行口座に嫌な揺さぶりが掛かっているのを感じた。 ZS800は軽量で、出せる速度も比較的控えめだが、それでもドラムブレーキの操作には慣れが必要だ。クラシックなバイクに乗ったことがあるライダーは、ドラムブレーキは頻繁に使用するとフェードしやすくなることをご存知であろうが、ZS800のブレーキには逆の傾向があるようで、これは試乗車の走行距離が非常に少ないためだと思われる。エンジンブレーキも併用しつつフロントブレーキとリヤブレーキを均等に組み合わせて使うことが、速度を落とす最も効果的な方法であり、一度慣れると自然に減速できるようになったが、このバイクはクリッピングまでブレーキを引きずって走らせるバイクではないことは確かだ。 いずれにしろ、このバイクに用いられている高水準の職人技は、市場で他に類を見ない。手編みのカーボンリムと繊細なカーボンスポークは芸術作品である。フレームの組み立てと溶接には、何日も、場合によっては何週間もかかっているに違いない。ほぼ全てのネジ、ナット、ボルトはチタン製で、容量11.5リットルの燃料タンクはフレームに組み込まれ、通常のバイクで燃料タンクが位置する場所にあるものは、1928年には存在しなかった各種電装部品を隠すカーボンカバーに過ぎない。 ZS800の周囲を歩き、過ぎ去った時代のアイデアと急進的な新しい考え方という、相反する要素の組み合わせを堪能すると、その完成度と仕上がりは乗車体験に引けを取らない満足感を与えてくれるものだと思えた。