<紡ぐ思い・センバツ2021北海>/下 困難克服の伝統継承 新たな歴史へ躍進誓う /北海道
「もっと腰を落として」。10年ぶりのセンバツ出場を決めた翌1月30日、雪に覆われたグラウンドで平川敦監督(49)の掛け声が響く。視線の先には、クロスカントリースキーに励む選手たち。北海道の特性を生かし、約20年前から取り組む伝統の練習メニューだ。 狙いは、足首や股関節などの柔軟性強化。心肺機能を高める効果もある。宮下朝陽(あさひ)主将(2年)は「きつい。でも守備では股関節の柔らかさにつながる」。 冬場、グラウンドでノックなどができない環境だが、この困難を逆手に体作りを進める。1、2年の部員59人は3班に分かれ、スキーのほか、室内での打撃やウエートトレーニングを行う。さらに、体育館でバドミントンやバスケットボールなど他競技にも取り組む。 平川監督はこう説明する。「野球は体をトータルに使うスポーツ。体の使い方は共通する点もある」。単調な練習にならないための工夫でもあるという。 こうした環境下にある選手たちが、心待ちにしていたのが神奈川県で2月に予定していた合宿だ。土のグラウンドで実践に近い形での練習が想定されていた。 しかし、首都圏を中心に新型コロナウイルスの感染が急拡大し、1月7日には神奈川を含む1都3県に緊急事態宣言が出された。合宿は中止。体作りをしながら、札幌市内の室内施設を借りて練習する方針に切り替えた。 センバツ開幕に向け、「3月上旬には実戦で選手の状態を上げられるよう調整したい」としていた平川監督だが、チーム作りは後手に回る。昨年11月に東京で開催予定だった明治神宮大会も新型コロナの影響で中止になるなど困難な状況が続く。 平川監督は「明治神宮大会の中止で試合からも遠ざかり、積み重ねたものがない状態。本州のチームは土の上でボールを使った練習ができると思うと状況は厳しい」と表情を曇らせる。 しかし、こうした窮地に毅然(きぜん)と立ち向かうのが「北海魂」だ。1885(明治18)年に創立された北海英語学校に起源を持つ北海。建学以来の基本精神は「質実剛健」に加え、何度失敗しても志を曲げないことを意味する「百折不撓(ひゃくせつふとう)」。教育方針に「どんな困難に出会ってもくじけない強い意志で自分を鍛え、社会に貢献する有為な人材を育成する」と記す。 2015年秋の新チームは発足して間もなく、「歴代最弱」と言われた。だが、スター性のある選手がいないなかで選手同士が切磋琢磨(せっさたくま)し、翌16年の夏の甲子園で準優勝を手にした。困難の克服という伝統を象徴する出来事だった。 大正、昭和、平成の各時代で甲子園での勝利を重ねてきた伝統校。創部120年を迎えた今年、令和初勝利という新たな歴史を刻もうとしている。 宮下主将は「練習をしているとたくさんのOBの方に声を掛けられ、支えられていると感じる。先輩たちから受け継いだ伝統を胸に全国で上を目指したい」と躍進を誓った。【三沢邦彦】