「『弾よけ』として最前線に投入されている」ロシアに送られた北朝鮮の“エリート兵士”たちを待つ「過酷すぎる運命」とは
筋骨隆々の兵士たちが思わぬ苦戦?
ただ、特殊作戦軍の兵士はゲリラ戦には秀でた能力を持っているものの、クルスク州はところどころ森林があるとはいえ、基本的に平野が広がっており、隠れる場所も少ない。北朝鮮兵は現地に入って2週間ほどで戦闘に投入されているため、地理研究も十分ではなく、相当な苦戦を強いられるだろう。 ロシアは外国人傭兵1人につき4600ドルのボーナスと月給2000ドルを支給しており、北朝鮮兵にも同等水準の給与が支払われるとみられる。月給500ドルから800ドル程度と言われるロシアや中国に派遣された北朝鮮労働者に比べれば好待遇だが、命を懸ける値段としては安すぎる。しかも、ほとんどが北朝鮮の外貨稼ぎとして国家に上納されるとみられる。 そもそも、今回、ロシアに送られた北朝鮮兵たちはどんな人々なのか。北朝鮮では男子の場合、高級中学校(高校)を卒業すると、大学進学者などを除いて基本的に徴兵される。兵役期間はかつて10年程度だったが、最近は7年に短縮されたという情報もある。韓国の2022年版国防白書によれば、北朝鮮軍兵力は128万余り。米グローバル・ファイヤーパワーが今年1月に公開した資料によれば、北朝鮮の現役兵員数は132万人余で、中国、インド、米国、ロシアに次ぐ世界第5位の規模を誇る。
30人中29人が「殴打を経験」
ただ、脱北者や専門家によれば、この数字には裏がある。北朝鮮軍兵士の大半は建設労働や農業などに駆り出され、「無償の労働力」として使われている。労働力とみなされている兵士たちは、軍事訓練をほとんど受けたことがない。李逸雨氏は「こうした兵士は戦闘能力を持っていない」と指摘する。専門家の間では、戦闘能力を持つ北朝鮮兵士は40万から60万人程度だとみられている。 劣悪な環境のため、「労働兵」を中心に、北朝鮮軍の士気は乱れ、問題も多発する。韓国のNGO、軍人権センターが2019年7月から20年6月まで、北朝鮮を逃れた軍服務経験者30人を対象に行った聞き取り調査によれば、軍隊内で殴打された経験がある人は29人にものぼった。また、29人が「定期休暇はない」と答えた。 主食は白米かトウモロコシだが、毎年、秋の収穫期前の7~9月になると、主食をトウモロコシや麦に頼るケースが増える。副食では安定供給されているのは大根だけだという。備品不足を補うため、部隊内での窃盗も相次いでいる。月給は兵士がタバコ1箱程度、将校でも米1キロに満たない程度しか支給されない。