「日本は壮大な実験場になる」…人工知能研究の第一人者に聞く「AIにはできない」こと
「裁判官は人ではなく、AIでもいいかもしれません」
社内にどんどんAIが導入され、事務作業が効率化されている。 今年、ノーベル化学賞を受賞したデミス・ハサビス氏はAIを活用して、たんぱく質の構造を予測したり、人工たんぱく質を設計する技術を開発した。彼は、これまで1年かかっていた創薬のために必要なデータ処理を、数分で終わらせたという。 【リアルすぎて…!】かわいいなら「AI」でもいい!? SNSに増えつつある「ニセ動物動画」たち 「AIを使うことで、社会は飛躍的に進歩するでしょう。今後、行政機関や会社でどんどん導入されていくと思います」 こう語るのは、慶應義塾大学理工学部の栗原聡教授だ。栗原教授は、『AIにはできない 人工知能研究者が正しく伝える限界と可能性』の著者であり、現在、人工知能学会・会長も務めている。 「なぜ行政機関や会社が導入するかというと、今まで人間がやっていた仕事をAIに置き換えることで人件費が浮くからです」 一時期は、AIの登場でブルーカラーの仕事が奪われるのではないかといわれていた。しかし、今や仕事を奪われるのはホワイトカラーだ。 「ChatGPTには、古今東西のあらゆる書物、文献、データが詰まっている。過去の判例をもとに判決を下すだけだったら、裁判官は人ではなく、AIでもいいかもしれません」 栗原教授によれば、AIの発達によって、格差も生まれるという。 AIを使えば面倒な作業も短時間で終わるし、ChatGPTを使えば、なんでも答えてくれる。この便利さにあぐらをかいて、自分では考えなくなる人が増えていくだろうというのだ。 ◆「発明」「発見」ができるのは人間だけ……“人間力”とは? 落ちこぼれないためには、どんな技術を身につけたらいいのだろうか。 「少し前まではプログラムが作れるなど、IT系の技術が必要だったかもしれません。基本的なデジタル操作能力は最低限必要とされますが、さらにAIにどのようなことをさせるか、どういうものを作りたいかということが大事です。 今のAIは、聞いたことに答えてくれますが、発見、発明はまだ人間にしかできません」 これからの人間に必要なのは、発明や発見をするための豊かな想像力や発想力。これは、どんな仕事につこうとも関係ないという。 発明、発見の大きな手助けとなるのが、ChatGPT。 「ChatGPTに問いかけるということは、数千万人、数億人に問いかけるのと同じです。当然、自分以上に知識を持っている人もいるし、自分と感性が違う人がいる。自分が気づかなかった答えが返ってくるのは当たり前です」 AIがなかったときは、人に相談していた。その相談をしているのと変わりはないという。 「ブレーンストーミングをしても、その場にいるのは、たかだか5~6人。それがChatGPTに聞けば、数億人に聞いた答えが数秒で返ってくる。どれだけ自分の手助けになるかといったら、これまでと月とスッポンどころじゃない。それがAIなんです」 AIを活用することによって、今まで以上にイノベーションは起こりやすくなるだろうと、栗原教授は言う。